メルマガ2020年10月号(号外①)

目次

①(労務×有期社員×同一労働同一賃金×賞与)有期労働契約者と無期労働契約者との間で、賞与、私傷病による欠勤中の賃金等に相違があったことが労働契約法20条に違反しないものとして、不法行為に基づく、賃金相当額等の損害賠償請求権が否定された例(最判令和2年10月13日(大阪医科薬科大学事件))

  第1 事案の概要
本件は,第1審被告と有期労働契約を締結して勤務していた時給制のアルバイト職員である第1審原告が,無期労働契約を締結している労働者(正職員)との間で,賞与及び業務外の疾病による欠勤中の賃金が正職員に支給される一方で,第1審原告には支給されないなどの相違があったことは労働契約法20条に違反するものであったと主張して,第1審被告に対し,不法行為に基づき,上記相違に係る賃金に相当する額等の損害賠償を求める事案である。

第2 原判決及び争点

1 原判決(大阪高裁)は,
①賞与の支給の有無に関する労働条件の相違について,第1審原告と同時期に新規採用された正職員の支給基準の60%を下回る部分は労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たり,
②業務外の疾病による欠勤中の賃金の支給の有無に関する労働条件の相違について,欠勤中の賃金(正職員には,6か月間,給料月額の全額が支払われる。)のうち給料1か月分及び休職給(正職員には,上記6か月間の経過後,休職が命ぜられた上で標準給与の2割が支払われる。)のうち2か月分を下回る部分は同条にいう不合理と認められるものに当たる
として,これらに係る損害賠償請求の一部を認容した。

2 本件における争点は,上記①及び②の労働条件の相違が,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かである。

第3 判決の内容

(下線部、①②などの数字、装飾等は引用者による。)

―・中略・―

4 しかしながら,原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 賞与について
ア 規範定立(労契法20条)
労働契約法20条は,有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結した労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期労働契約を締結した労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり,両者の間の労働条件の相違が賞与の支給に係るものであったとしても,それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも,その判断に当たっては,他の労働条件の相違と同様に,当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより,当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。
イ あてはめ
(ア) 賞与の性質及び目的
第1審被告の正職員に対する賞与は,正職員給与規則において必要と認めたときに支給すると定められているのみであり,基本給とは別に支給される一時金として,その算定期間における財務状況等を踏まえつつ,その都度,第1審被告により支給の有無や支給基準が決定されるものである。また,上記賞与は,通年で基本給の4.6か月分が一応の支給基準となっており,その支給実績に照らすと,第1審被告の業績に連動するものではなく,算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償,将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる。そして,正職員の基本給については,勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており,勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえる上,おおむね,業務の内容の難度や責任の程度が高く,人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていたものである。このような正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば,第1審被告は,正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる。
(イ) 職務の内容等
(ⅰ) 職務の内容
そして,第1審原告により比較の対象とされた教室事務員である正職員とアルバイト職員である第1審原告の労働契約法20条所定の「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」(以下「職務の内容」という。)をみると,両者の業務の内容は共通する部分はあるものの,第1審原告の業務は,その具体的な内容や,第1審原告が欠勤した後の人員の配置に関する事情からすると,相当に軽易であることがうかがわれるのに対し,教室事務員である正職員は,これに加えて,学内の英文学術誌の編集事務等,病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する必要があったのであり,両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。
(ⅱ) 変更の範囲
また,教室事務員である正職員については,正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し,アルバイト職員については,原則として業務命令によって配置転換されることはなく,人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていたものであり,両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)に一定の相違があったことも否定できない。
(ⅲ) その他の事情
さらに,第1審被告においては,全ての正職員が同一の雇用管理の区分に属するものとして同一の就業規則等の適用を受けており,その労働条件はこれらの正職員の職務の内容や変更の範囲等を踏まえて設定されたものといえるところ,第1審被告は,教室事務員の業務の内容の過半が定型的で簡便な作業等であったため,平成13年頃から,一定の業務等が存在する教室を除いてアルバイト職員に置き換えてきたものである。その結果,第1審原告が勤務していた当時,教室事務員である正職員は,僅か4名にまで減少することとなり,業務の内容の難度や責任の程度が高く,人事異動も行われていた他の大多数の正職員と比較して極めて少数となっていたものである。このように,教室事務員である正職員が他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異にするに至ったことについては,教室事務員の業務の内容や第1審被告が行ってきた人員配置の見直し等に起因する事情が存在したものといえる。また,アルバイト職員については,契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたものである。これらの事情については,教室事務員である正職員と第1審原告との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり,労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。
(ウ) (使用者の不利な事情を踏まえた)不合理であるかの判断
そうすると,第1審被告の正職員に対する賞与の性質やこれを支給する目的を踏まえて,教室事務員である正職員とアルバイト職員の職務の内容等を考慮すれば,正職員に対する賞与の支給額がおおむね通年で基本給の4.6か月分であり,そこに労務の対価の後払いや一律の功労報償の趣旨が含まれることや,正職員に準ずるものとされる契約職員に対して正職員の約80%に相当する賞与が支給されていたこと,アルバイト職員である第1審原告に対する年間の支給額が平成25年4月に新規採用された正職員の基本給及び賞与の合計額と比較して55%程度の水準にとどまることをしんしゃくしても,教室事務員である正職員と第1審原告との間に賞与に係る労働条件の相違があることは,不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。
ウ 結論
以上によれば,本件大学の教室事務員である正職員に対して賞与を支給する一方で,アルバイト職員である第1審原告に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。
(2) 私傷病による欠勤中の賃金について
ア 私傷病による欠勤中の賃金の目的
第1審被告が,正職員休職規程において,私傷病により労務を提供することができない状態にある正職員に対し給料(6か月間)及び休職給(休職期間中において標準給与の2割)を支給することとしたのは,正職員が長期にわたり継続して就労し,又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし,正職員の生活保障を図るとともに,その雇用を維持し確保するという目的によるものと解される。このような第1審被告における私傷病による欠勤中の賃金の性質及びこれを支給する目的に照らすと,同賃金は,このような職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度であるといえる。
イ 職務の内容等
(ア) 職務の内容
そして,第1審原告により比較の対象とされた教室事務員である正職員とアルバイト職員である第1審原告の職務の内容等をみると,前記(1)のとおり,正職員が配置されていた教室では病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務等が存在し,
(イ) 変更の範囲
正職員は正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があるなど,教室事務員である正職員とアルバイト職員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があったことは否定できない。
(ウ) その他の事情
さらに,教室事務員である正職員が,極めて少数にとどまり,他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異にするに至っていたことについては,教室事務員の業務の内容や人員配置の見直し等に起因する事情が存在したほか,職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたという事情が存在するものである。
ウ (使用者の不利な事情を踏まえた)不合理であるかの判断
そうすると,このような職務の内容等に係る事情に加えて,アルバイト職員は,契約期間を1年以内とし,更新される場合はあるものの,長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難いことにも照らせば,教室事務員であるアルバイト職員は,上記のように雇用を維持し確保することを前提とする制度の趣旨が直ちに妥当するものとはいえない。また,第1審原告は,勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなり,欠勤期間を含む在籍期間も3年余りにとどまり,その勤続期間が相当の長期間に及んでいたとはいい難く,第1審原告の有期労働契約が当然に更新され契約期間が継続する状況にあったことをうかがわせる事情も見当たらない。したがって,教室事務員である正職員と第1審原告との間に私傷病による欠勤中の賃金に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものとはいえない。
エ 結論
以上によれば,本件大学の教室事務員である正職員に対して私傷病による欠勤中の賃金を支給する一方で,アルバイト職員である第1審原告に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

5 最終結論
以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する第1審被告の論旨は理由があり,他方,第1審原告の論旨は理由がなく,第1審原告の賞与及び私傷病による欠勤中の賃金に関する損害賠償請求は理由がないから棄却すべきである。そして,同請求に関する部分以外については,第1審原告及び第1審被告の各上告受理申立て理由が上告受理の決定においてそれぞれ排除された。以上によれば,第1審原告の請求は,夏期特別有給休暇の日数分の賃金に相当する損害金5万0110円及び弁護士費用相当額5000円の合計5万5110円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容すべきであり,その余は理由がないから棄却すべきである。したがって,原判決中,第1審被告敗訴部分のうち上記の金額を超える部分は破棄を免れず,第1審被告の上告に基づき,これを主文第1項のとおり変更することとし,また,第1審原告の上告は棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮崎裕子 裁判官 戸倉三郎 裁判官 林 景一 裁判官 宇賀克也 裁判官 林 道晴)

第4 コメント(速報版:2020年10月14日)
1 賞与について
本判決は、使用者側に有利な判決となりました。
本判決を前提とすると、今後企業がとるべき対応策は、以下の3つの点、です。

⑴   正規・非正規の労働者につき、職務の内容に相違を設けること
    ➡例:業務内容や責任の程度に相違を設けること
⑵   正規・非正規の労働者につき、変更の範囲に相違を設けること
  ➡例:昇降格、配置転換、出向などに相違を設けること
⑶   その他の事情に関する措置
➡例:試験等による正社員登用制度を導入し、実質的に活用すること、
➡例:上記⑴による職務の内容に相違を設けることできない事情がある場合にはその事情を説明できるようにしておくこと

 なお、本判決では、使用者に不利な事実として次の3点を挙げましたが、賞与の性質や目的を踏まえ、上記⑴~⑶における使用者に有利な事実とを(総合)考慮した結果、不合理であるとは認めませんでした。
① 正職員に対する賞与の支給額がおおむね通年で基本給の4.6か月分であり、そこに労務の対価の後払いや一律の功労報償の趣旨が含まれること
② 正職員に準ずるものとされる契約職員に対して正職員の約80%に相当する賞与が支給されていたこと
③ アルバイト職員である者に対する年間の支給額が55%程度の水準にとどまること

★結論★
したがって、使用者としては、上記⑴~⑶に関し、有利な事情を積み重ねるべく、人事施策を講じていくべきです。
なお、注意点としては、本判決は、労働条件の相違が賞与であったとしても、不合理と認められるものに当たる場合はあり得る、と判示している点です。事案によっては不合理と認められる可能性があることに留意すべきです。

2 私傷病による欠勤中の賃金について
賞与と同様に、上記⑴~⑶の対応策と、これに加えて以下の⑷の対策をとることが考えられます。
 すなわち、本判決は、「第1審原告は,勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなり,欠勤期間を含む在籍期間も3年余りにとどまり,その勤続期間が相当の長期間に及んでいたとはいい難く,第1審原告の有期労働契約が当然に更新され契約期間が継続する状況にあったことをうかがわせる事情も見当たらない」ことを、労働条件の相違があることが不合理でないとする理由に挙げています。

 このことから、

⑷ 有期労働契約社員については、一定年数(例:原則5年以内)で契約を終了する(もっとも、優秀な社員については、正社員登用制度を活用する)

という対応策をとることも検討に値します。

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②(労務×有期社員×同一労働同一賃金×退職金)有期労働契約者と無期労働契約者との間で、退職金等に相違があったことが労働契約法20条に違反しないものとして、不法行為に基づく、上記相違に係る退職金に相当する額の損害賠償請求権が否定された例(最判令和2年10月13日(メトロコマース事件))

第1 事案の概要
 本件は,第1審被告と有期労働契約を締結して地下鉄の駅構内の売店における販売業務に従事していた第1審原告らが,無期労働契約を締結している労働者(正社員)のうち上記販売業務に従事している者と第1審原告らとの間で,退職金等に相違があったことは労働契約法20条に違反するものであったと主張して,第1審被告に対し,不法行為等に基づき,上記相違に係る退職金に相当する額等の損害賠償等を求める事案である。

第2 原判決及び争点

1 原判決(東京高裁)は,退職金の支給の有無に関する労働条件の相違について,第1審原告らの長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金,具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら一切支給しないことは労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとして,上記相違に係る損害賠償請求の一部を認容した。2 本件における争点は,退職金の支給の有無に関する労働条件の相違が,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かである。

第3 判決の内容

 (下線部、①②などの数字、装飾等は引用者による。)

―・中略・―

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 規範定立(労働契約法20条)
労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期契約労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり,両者の間の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても,それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも,その判断に当たっては,他の労働条件の相違と同様に,当該使用者における退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより,当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。
(2) あてはめ
ア 退職金の性質及び目的
第1審被告は,退職する正社員に対し,一時金として退職金を支給する制度を設けており,退職金規程により,その支給対象者の範囲や支給基準,方法等を定めていたものである。そして,上記退職金は,本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされているところ,その支給対象となる正社員は,第1審被告の本社の各部署や事業本部が所管する事業所等に配置され,業務の必要により配置転換等を命ぜられることもあり,また,退職金の算定基礎となる本給は,年齢によって定められる部分と職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものとされていたものである。このような第1審被告における退職金の支給要件や支給内容等に照らせば,上記退職金は,上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり,第1審被告は,正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。
イ 職務の内容等
(ⅰ)職務の内容
そして,第1審原告らにより比較の対象とされた売店業務に従事する正社員と契約社員Bである第1審原告らの労働契約法20条所定の「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」(以下「職務の内容」という。)をみると,両者の業務の内容はおおむね共通するものの,正社員は,販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか,複数の売店を統括し,売上向上のための指導,改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理,商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し,契約社員Bは,売店業務に専従していたものであり,両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。
(ⅱ)変更の範囲
また,売店業務に従事する正社員については,業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり,正当な理由なく,これを拒否することはできなかったのに対し,契約社員Bは,業務の場所の変更を命ぜられることはあっても,業務の内容に変更はなく,配置転換等を命ぜられることはなかったものであり,両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)にも一定の相違があったことが否定できない。
(ⅲ)その他の事情
さらに,第1審被告においては,全ての正社員が同一の雇用管理の区分に属するものとして同じ就業規則等により同一の労働条件の適用を受けていたが,売店業務に従事する正社員と,第1審被告の本社の各部署や事業所等に配置され配置転換等を命ぜられることがあった他の多数の正社員とは,職務の内容及び変更の範囲につき相違があったものである。そして,平成27年1月当時に売店業務に従事する正社員は,同12年の関連会社等の再編成により第1審被告に雇用されることとなった互助会の出身者と契約社員Bから正社員に登用された者が約半数ずつほぼ全体を占め,売店業務に従事する従業員の2割に満たないものとなっていたものであり,上記再編成の経緯やその職務経験等に照らし,賃金水準を変更したり,他の部署に配置転換等をしたりすることが困難な事情があったことがうかがわれる。このように,売店業務に従事する正社員が他の多数の正社員と職務の内容及び変更の範囲を異にしていたことについては,第1審被告の組織再編等に起因する事情が存在したものといえる。また,第1審被告は,契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け,相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたものである。これらの事情については,第1審原告らと売店業務に従事する正社員との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり,労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。
ウ (使用者の不利な事情を踏まえた)不合理であるかの判断
そうすると,第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば,
①契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ,定年が65歳と定められるなど,必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず,
②第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していること
をしんしゃくしても,両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは,不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。
なお,契約社員Aは平成28年4月に職種限定社員に改められ,その契約が無期労働契約に変更されて退職金制度が設けられたものの,このことがその前に退職した契約社員Bである第1審原告らと正社員との間の退職金に関する労働条件の相違が不合理であるとの評価を基礎付けるものとはいい難い。また,契約社員Bと職種限定社員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があることや,契約社員Bから契約社員Aに職種を変更することができる前記の登用制度が存在したこと等からすれば,無期契約労働者である職種限定社員に退職金制度が設けられたからといって,上記の判断を左右するものでもない。
(3) 結論
以上によれば,売店業務に従事する正社員に対して退職金を支給する一方で,契約社員Bである第1審原告らに対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。
5 最終結論
以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する第1審被告の論旨は理由があり,他方,第1審原告らの論旨は理由がなく,第1審原告らの退職金に関する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がないから棄却すべきである。そして,同請求に関する部分以外については,第1審原告ら及び第1審被告の各上告受理申立て理由が上告受理の決定においてそれぞれ排除された。以上によれば,第1審原告X1の請求は,住宅手当,褒賞及び弁護士費用に相当する損害金としてそれぞれ22万0800円,8万円及び3万0080円の合計33万0880円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,第1審原告X2の請求は,住宅手当,褒賞及び弁護士費用に相当する損害金としてそれぞれ11万0400円,5万円及び1万6040円の合計17万6440円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これらを認容すべきであり,その余はいずれも理由がないから棄却すべきである。したがって,原判決中,第1審被告敗訴部分のうち上記の各金額を超える部分はいずれも破棄を免れず,第1審被告の上告に基づき,これを主文第1項のとおり変更することとし,また,第1審原告らの上告はいずれも棄却すべきである。
よって,裁判官宇賀克也の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官林景一,同林道晴の各補足意見がある。

(裁判長裁判官 林 景一 裁判官 戸倉三郎 裁判官 宮崎裕子 裁判官 宇賀克也 裁判官 林 道晴)

第4 コメント

1 退職金について
本判決は、使用者側に有利な判決となりました。
本判決を前提とすると、今後企業がとるべき対応策は、以下の3つの点、です。

⑴   正規・非正規の労働者につき、職務の内容に相違を設けること
    ➡例:業務内容や責任の程度に相違を設けること
⑵   正規・非正規の労働者につき、変更の範囲に相違を設けること
  ➡例:昇降格、配置転換、出向などに相違を設けること
⑶   その他の事情に関する措置
➡例:試験等による正社員登用制度を導入し、実質的に活用すること、
➡例:上記⑴による職務の内容に相違を設けることできない事情がある場合にはその事情を説明できるようにしておくこと

 なお、本判決では、使用者に不利な事実として次の2点を挙げましたが、退職金が有する複合的な性質や支給の目的を踏まえ、上記⑴~⑶における使用者に有利な事実とを(総合)考慮した結果、不合理であるとは認めませんでした。

① 契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ,定年が65歳と定められるなど,必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえないこと
② 第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していること

★結論★

したがって、使用者としては、上記⑴~⑶に関し、有利な事情を積み重ねるべく、人事施策を講じていくべきです。
なお、注意点としては、反対意見が、

「正社員は,配置転換,職種転換又は出向の可能性があるのに対して,契約社員Bは,勤務する売店の変更の可能性があるのみという制度上の相違は存在するものの,売店業務に従事する正社員は,互助会において売店業務に従事していた者と,登用制度により正社員になった者とでほぼ全体を占めており,当該売店業務がいわゆる人事ローテーションの一環として現場の勤務を一定期間行わせるという位置付けのものであったとはいえない。」

と判示している点です。制度上、配置転換等の規定があったとしても、それが形式的なものにとどまる場合、上記⑵において、使用者にとり有利な事情として評価されない可能性があること(不利な事情として評価される可能性があること)に留意すべきです。
また、本判決は、労働条件の相違が退職金であったとしても、不合理と認められるものに当たる場合はあり得る、と判示している点(=事案によっては不合理と認められる可能性があること)に留意すべきです。

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