メルマガ 2021年4月号

動画(無料)に、興味のある使用者側の方々は、⇊⇊⇊をご参照下さい。

目次

①(労務×労働者性×運転代行×割増賃金)運転代行を業とする会社において業務を行っていた運転代行者について、労働者性が否定された例

【判例】

事件名:日本代行事件
判決日:大阪地判令和2年12月11日

【事案の概要】

運転代行を業とする会社において業務を行っていた運転代行者が、労働者性を争い、契約の性質が業務委託契約ではなく、労働契約であると主張し、会社に対し、雇用契約に基づき、割増賃金等の支払いなどを求めた事案

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。下線部、①②などの数字、装飾等は引用者による。)】

・当事者

被告運転代行を業とする株式会社
原告a、b被告において業務を行っていた運転代行者

1 規範について
「契約の名称は当事者の意思の表れとして契約の性質を判断するための考慮要素の一つとはなり得るものの,その名称をもって直ちに契約の法的性質が決まるものではなく,当該契約の法的性質については,契約の内容を実質的に検討することが必要である。」

そして、「労働(雇用)契約とは,労働者が使用者の指揮命令に従って労務を提供し,使用者がその対価としての賃金を支払う契約である」ため、「原告らが,被告の指揮命令に従って労務を提供し,労務に対する対償を支払われる者であるかについて,種々の観点から検討」する。

2 被告の指揮命令に従って労務を提供していたと評価することはできないこと
⑴   拘束性がないこと
ア 勤務日・勤務時間についての拘束性がなかったこと
第一に、「被告においては,原告らを含むドライバーは,毎週木曜日までに翌週の出社予定について,定型の書式を用いて,各日ごとに「出社」,「連絡」,「休み」の三種類から選択して記入するという方法で連絡することになっていた」。

そして、「原告らが出社を希望したにもかかわらず,被告から出社を拒否されたあるいは原告らの意思に反して出社を命じられたというような事情はうかがわれない」

そうすると、原告らは「出社するか否かを自らの意思で自由に決定することができていた」ため、「勤務日」について「拘束されていなかったということができる。」

第二に、被告における他の部署の従業員は「タイムカードを打刻することとされている(認定事実(3)イ)のに対し,原告らを含むドライバーはタイムカードを打刻することとされていないのであり,また,労働時間も把握されていなかった」。

そうすると、「労働時間も把握されていなかった」のであるから、「勤務時間について拘束されていなかった」。

イ 勤務場所についての拘束性がなかったこと
「番号札を取ったり,運転代行業務に使用する車両を手に入れるため最初に被告事務所に赴く必要があるが,その後は,被告の事務所で待機して打診を待つことも,歓楽街等で打診を待つことも自由であった」。

よって、「勤務場所についても拘束されていなかった」。

⑵ 業務の遂行方法について個別具体的な指示がなかったこと
「どのような経路で顧客の指定する場所まで赴くか,運転代行業務終了後,どこで待機するか,待機場所まで戻る際に高速道路を使用するか否かなどは各ドライバーが自由に決めていた」。

よって、「運転代行という業務の遂行方法について,被告から各ドライバーに対する個別具体的な指示はなされていなかった」。

⑶ 業務を受けるか否かの諾否の自由を有していたこと
⑴のとおり、「原告らを含むドライバーが出社日を自由に決定することができていたことからすれば,原告らを含むドライバーはある日について業務を受けるか否かの諾否の自由を有していた」。

また、「被告の本部長であるdがドライバーとして運転業務に従事したこと」は,「原告らを含むドライバーが,被告の営業時間内であっても,各ドライバーの事情(例えば,被告での業務が副業であった場合,本業の出勤時間との兼ね合いなどが想定される。)から,一定の時間になれば自らの意思で以降の運転代行業務に従事しないこととするなどという諾否の自由を有していたからであることがうかがわれる。」

⑷ 報酬の労務対償性がなかったこと
ア 労務対償性が弱かったこと
「報酬は,運転代行業務の売上額に応じてその金額が決まる完全歩合制となって」おり、「労務提供時間の長さとは無関係なものであった」。

よって、「原告らが支払を受ける報酬は,労務対償性が弱かった」。

イ 労務対償性がなかったこと
「被告は,各ドライバーに報酬を支払うにあたって,社会保険料及び公租公課の控除を行って」いなかった。

また、「事務室の談話室のトイレ横に紙を貼って,運送業一人親方特別加入を案内し」ていた。

さらに、「確定申告の相談窓口として,税理士事務所を紹介するなどしてい」た。

上記は、「報酬の労務対償性がなかったことをうかがわせる事情である」。

⑸ 専属性がなかったこと
「被告の営業時間が午後8時から午前4時という夜間であった」。

また、「被告が求人情報サイトに掲載していた情報においても「Wワークの方も歓迎」とされていた」。

そうすると、「被告で運転代行業務に従事するドライバーは,副業として従事している者が多かったことがうかがわれ,そうであれば,被告で運転代行業務に従事していたドライバーには専属性がなかった」。

⑹ 結論
「本件において,原告らが,被告の指揮命令に従って労務を提供していたと評価することはできないから,原告らと被告との契約が雇用契約であったということはできない。」

3 小括
「原告らと被告との契約の性質は雇用契約ではないから,原告らと被告との契約に基づいて被告が業務に従事したとしても,割増賃金(ひいては,それらに係る遅延損害金及び付加金)が発生することはない。」

【結論】
裁判所は、原告らの請求をいずれも棄却した。

【コメント】
本件は、労働者性が争われたケースです。労働者性が否定されており、使用者に有利な裁判例ですので、ご紹介します。
なお、運転代行運転手の労基法上の労働者性が肯定された裁判例としては、ミヤイチ本舗事件(東京高判平成30.10.17)があります。これと比較すると、理解が深まります。

なお、本裁判例についての動画配信にご興味のある方(経営者、社労士先生など)は、
https://www.itm-asp.com/form/?3205
から、ご視聴下さい。
(配信期限は、2021年5月末(無料)です。期限経過後の視聴にご興味のある方は、mo@tamura-law.comまで、お問い合わせ下さい)

②(労務×退職金×遺族×配偶者)中退共等の被共済者死亡による退職金等の支給について、事実上の離婚状態にある配偶者には受給権が認められないと判断した例

【判例】

事件名:退職金等請求事件
判決日:最判令和3年3月25日

【事案の概要】

A(①中小企業退職金共済法所定の退職金共済契約の被共済者、②確定給付企業年金法所定の企業年金基金であるJPP基金の加入者、かつ③平成25年改正前厚生年金保険法所定の厚生年金基金である出版厚生年金基金の加入員)が死亡したところ、Aの子である被上告人が、①の共済契約に基づく退職金、②の規約に基づく遺族給付金、及び③の規約に基づく遺族一時金(以下、「本件退職金等」という。)の各支払いを求めた。本件退職金等の最先順位の受給権者はいずれも「配偶者」と定められていたが、Aの死亡時点において、Aと民法上の配偶者Cが事実上の離婚状態にあったため、Cが本件退職金等の支給を受けるべき「配偶者」に該当するかが問題となった事案。

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。下線部、①②などの数字、装飾等は引用者による。)】

「(1)中小企業退職金共済法は,中小企業の従業員の福祉の増進等を目的とするところ(1条),退職が死亡によるものである場合の退職金について,その支給を受ける遺族の範囲と順位の定めを置いており,事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む配偶者を最先順位の遺族とした上で(14条1項1号,2項),主として被共済者の収入によって生計を維持していたという事情のあった親族及びそのような事情のなかった親族の一部を順次後順位の遺族としている(同条1項2~4号,2項)。このように,上記遺族の範囲及び順位の定めは,被共済者の収入に依拠していた遺族の生活保障を主な目的として,民法上の相続とは別の立場で受給権者を定めたものと解される。このような目的に照らせば,上記退職金は,共済契約に基づいて支給されるものであるが,その受給権者である遺族の範囲は,社会保障的性格を有する公的給付の場合と同様に,家族関係の実態に即し,現実的な観点から理解すべきであって,上記遺族である配偶者については,死亡した者との関係において,互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者をいうものと解するのが相当である(最高裁昭和54年(行ツ)第109号同58年4月14日第一小法廷判決・民集37巻3号270頁参照)。

そうすると,民法上の配偶者は,その婚姻関係が実体を失って形骸化し,かつ,その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない場合,すなわち,事実上の離婚状態にある場合には,中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらないものというべきである。

―・中略・―

遺族給付金及び遺族一時金についても,上記(1)と同様に,民法上の配偶者は,その婚姻関係が事実上の離婚状態にある場合には,その支給を受けるべき配偶者に当たらないものというべきである。」

【結論】
裁判所は、AとCの婚姻関係は、Aの死亡当時、事実上の離婚状態にあったものであるから、Cは、本件退職金等の支給を受けるべき配偶者には該当しないと判断した。

【コメント】
本判決は、中退共等の被共済者が死亡した場合の本件退職金等の受給権者である遺族の範囲を、家族関係の実態に即して判断しました。本件の具体的な事情としては、
(ⅰ)被共済者Aと民法上の配偶者Cは、20年以上別居していたこと、
(ⅱ)離婚の意思があったものの、子の就職に支障が生ずることを懸念して、離婚の手続をせずにいたこと、
(ⅲ)Aの死亡時にCは葬儀に出席しなかったこと、
(ⅳ)Aが推定相続人であるCを廃除して子である被上告人に全ての遺産を相続させる旨の遺言をしたこと
等があり、裁判所はAとCの婚姻関係は事実上の離婚状態にあったと判断しています。

なお、農林漁業団体職員共済組合法の遺族給付に関して同様の判断をした判例として、上記判旨にも引用されている最判昭和58年4月14日があります。

★本メルマガは、当事務所所属の弁護士の(使用者側からの)私見を示したものです。そのため、個別具体的な事実が異なれば、結論は異なります。そのため、個別案件については、事前に外部専門家(弁護士や社労士など)に相談して、当該専門家の助言に従って対応して下さい。  本メルマガの内容に基づいて行動した結果、何等かの損害・損失が発生したとしても、一切賠償等には応じかねますので、あらかじめご了承下さい。

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