【ディー・アップ】社長のパワハラ問題<弁護士コメント>企業は、どうすべきか?【化粧品会社/D-UP社の1.5億円の支払いを踏まえて】

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【注目のケース】<パワハラ問題が引き起こしたケース>

弁護士田村裕一郎です。

今、話題になっている、D-UP社【化粧品会社。株式会社ディー・アップ】が世間の注目を集めた問題について、コメントしたいと思います。

この件は、2025年4月に遺族の記者会見が行われ、その後、2025年9月11日、社長退任を含む和解のニュースが報道され、炎上に発展したケースです。

問題となった、事実経緯とパワハラの内容は?

おおまかな内容としては、次のように報道されています。会社の主張や反論の内容が十分に判明しているわけではありませんし、遺族側の主張等を完全に網羅しているわけではありませんので、その点は注意すべきです(つまり、事実関係に争いがあり得ますので、下記が全て事実であるとは限りません)。

事件の概要

  • 被害者: D-UP社に勤務していた女性社員。
  • 入社から自死に至る経緯:
    • 2021年4月: 新卒で入社。
    • 2021年12月: 社長による約50分間にわたる叱責。
    • 2022年1月: 女性社員がうつ病を発症し、休職。
    • 2022年7月: 女性社員の休職期間満了を理由に雇用終了通知。
    • 2022年8月: 女性社員が自殺を図る。
    • 2023年10月: 女性社員が死去(当時、25歳)。
  • パワハラの内容:
    • 社長が女性社員を社長室に呼び出し、叱責を行った。
    • 「お前、大人をなめるなよ」「世の中でいう野良犬っていうんだよ」といった人格を否定する発言があった。
  • 労災認定:
    • 2024年5月、三田労働基準監督署が、社長のパワハラによるうつ病発症と死亡の因果関係を認め、労災認定した。 

訴訟と調停

  • 訴訟: 遺族は会社と社長に対し、損害賠償を求めて提訴した。
  • その後、調停の手続きに移行し、
  • 調停: 2025年9月9日、東京地裁は、次の内容を含む「調停に代わる決定」を出し、調停(和解)が成立した。
    • 会社と社長が、遺族に1億5千万円を支払う。
    • 社長が辞任する。 

会社と社長の対応

  • 事件後、D-UP社は「亡くなられた元従業員とご遺族に対し、衷心よりお詫び申し上げます」、「社長が交代した」、「再発防止に向けた社内体制と職場環境の見直し等に取り組む」などを記載した次の文書を公表した。

会社が公表した文書

ネットの反応は?

上記の和解が報道され、世間の注目を集めました。

昔であれば、「これって、普通」と思われる言動でも、時代が進むと、「これは、ハラスメントだ」となり得ます。世間の(今の)感覚と、企業の感覚には、ずれがあった、といえます。

そもそも、パワハラか

この点については、厚労省の指針に、定義が記載されています。

職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるものであり、
①から③までの要素を全て満たすものをいう。

今回の件は、②③が問題になりそうです。

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものか?

この点については、厚労省の指針に、次の点が記載されています。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、

社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指し、例えば、以下のもの等が含まれる。
・ 業務上明らかに必要性のない言動
・ 業務の目的を大きく逸脱した言動
・ 業務を遂行するための手段として不適当な言動
・ 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動


この判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等)を総合的に考慮することが適当である。また、その際には、個別の事案における労働者の行動が問題となる場合は、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素となることについても留意が必要である。

上記のとおり、②かどうか、を判断するためには、様々な要素を総合判断する必要があります。そのため、今回の件が、パワハラか?(=少なくとも、②をみたすか?)については、上記の「事実経緯」記載情報だけでは、実務上、(問題行動の有無や内容などが判明していないため)断定できる、とまではいえない、といえます。

しかし、ここで忘れてはいけないことは、次の点です。

㋐「野良犬」等に関する発言は、(仮に、発言したことが事実だとすれば)果たして、必要なのか?
㋑必要だとしても、その表現で、良いのか?

また、
㋒(パワハラの被害者に)問題行動があったとしても、その問題行動に対する指導として、「人格否定」になっていないか?
㋓一般に、「新人」社員は、年齢が若く、人生経験も浅いため、「厳しい言葉」に慣れていない。そのため、「人格否定」の言葉によって、強い精神的ダメージを受けるのではないか?

という視点です。

③労働者の就業環境が害されるものか?

この点については、厚労省の指針に、定義が記載されています。

「労働者の就業環境が害される」とは、

当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指す。

この判断に当たっては、
平均的な労働者の感じ方
すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当である。

上記のとおり、平均的な労働者の感じ方がポイント、とされています。

平均的な労働者の感じ方、については、(仮に訴訟になれば)裁判官が判断することになります。

今回の場合、どのように判断するか、会社を含む双方の主張や立証を分析する必要はありますが、

今回の事情として、

㋐新入社員(女性)1名、対、社長という構図があること
㋑「野良犬」等の表現が用いられていること

という視点も忘れてはいけません。また、

平均的な労働者の感じ方は、時代によって、変わる

という点も、大切です。私の感覚だと、20代の感じ方と、50代以降の感じ方では、大きく異なるという印象です。

企業はどうすべきか

D-UP社の対応がこれで良かったのか、は別にして、

(化粧品業界を含む)一般的な業界における、一般的な事業会社の場合、

研修を定期的に実施すべき

と思います。

私は、「人格否定の発言、は行うべきではない」と社員研修で話すことが多い、です。

「人格否定」は、たとえ問題行動が酷いものであったとしても、社長を含む上司や会社にとって、リスクが高い、です。

最近は、どんどん、「ハラスメント」に関する考え方が、変化しています。

ハラスメント加害者は、よく、「私の時代では、大丈夫だったのに。」とか、「なぜ、自分だけが、加害者扱いされるのか」と言われます。

しかし、時代が変わり、人が変わり、考え方が、変わります。

そのため、企業としては、数年に1度は、ハラスメント研修を実施し、社長を含む会社構成員全体の意識を変えるべきです

新たな被害者を生まないために。

加えて、新たな加害者を生まないために。

注目すべき点:休職に関する対応

報道によると、会社は、休職後に、雇用終了としたようです。あくまで推測ですが、会社としては、「パワハラではない」という意識が強かった可能性があります。場合によっては、会社としては、「問題社員に対し、改善指導の認識で指導しただけなのに、予想に反して、死亡という重大結果が生じ、かつネット炎上して、想定外の事態に発展してしまった」といった認識である可能性も、否定できません。

人は誰でも、失敗をしてしまうもの。

失敗しない人は、いません。

こういった時に、企業がむやみに、「雇用終了」と即断するのではなく、可能な限り、ソフトランディング(例えば、雇用の維持または終了の判断、終了の場合の時期などについての協議を行った上で、あくまでも合意による解決。少なくとも、自死という結果を回避する解決策)を目指すのも、経営者に求められる対応の1つといえます(もちろん、悪質事案については、厳正に対処すべきです。このあたりの「さじ加減」は難しいところですし、業界特有の事情もありますので、外部専門家の意見を聞きながら、適切に対応すべきです)。

動画解説1

本記事に関し、詳しい内容についての動画に興味のある方は、下記YouTubeをご視聴下さい。

動画解説2

D-up社の件ではありませんが、パワハラ一般についての動画に興味のある方は、下記YouTubeをご視聴下さい。

補足:参考情報

1、弁護士JPニュース

2、NHKニュース

3、テレ朝news

4、読売新聞オンライン1

5、読売新聞オンライン2

6、朝日新聞

7、会社の公表文書(2025年9月11日時点でのリンク作成)

8、今後、新しい情報が入れば、アップデートしたいと思っています。

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