定年後再雇用:2年目(以降)の賃金減額は可能か?企業の対応は?

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【注目の裁判例】<東光高岳事件、東京地裁R6.4.25.>

弁護士田村裕一郎です。

今回は、定年後再雇用において、2年目(以降)の賃金減額は可能か?企業の対応は?について、<東光高岳事件、東京地裁R6.4.25.>を前提として、記事を書きました。

結論としては、「企業が、定年後再雇用において、2年目(以降)の賃金減額の提案をすることは可能であり、労働者が、その賃金減額を拒否した場合、2年目(以降)の当該契約は不成立となる。つまり、雇用終了となる。」場合がある、というものです。留意点としては、必ずしも、雇用終了が適法になるとは限らない、というものです。

よりわかりやすい情報を取得したい方は、本記事のみならず、YouTube動画も、ご視聴下さい。

定年後再雇用における2年目の契約交渉の際の考え方

定年後再雇用における2年目の契約交渉の際、使用者が(労働者にとって)不利益な内容の労働条件を提案し、労働者がこれに同意しない場合、定年後再雇用は、1年のみで終了となります。この場合、

かかる契約終了は、有効か?

が問題となります。具体的には、労働契約法の次の条文が問題となります。

上記のとおりですので、使用者としては、㋐第1条件につき、更新の期待を生じさせないこと(上記の紫に該当しないようにすること)、又は、㋑第2条件につき、更新拒絶につき合理的理由等があること(上記の緑に該当しないようにすること)が重要です。

第1基準:㋐更新の期待における「更新」は、直前の契約と同一の労働条件での更新か?

この点について、詳細は、割愛しますが、<東光高岳事件、東京地裁R6.4.25.>では、以下のように述べています。

労契法19条2号の「更新」とは、従前の労働契約、すなわち直近に締結された労働契約と同一の労働条件で契約を締結することをいうと解される。なぜならば、労契法19条2号は、期間満了により終了するのが原則である有期労働契約において、雇止めに客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で労働契約を成立させるという法的効果を生じさせるものであるから(同条柱書)、その要件としての「更新」の合理的期待は、法的効果に見合う内容であることを要すると解されるからである。また、労契法19条2号は、・・・・・以下略・・・・・・」

この点については、別の見解もあるところですが、上記を図にすると、以下のとおり、です。

ただ、本記事では、これを前提として、紹介します。

第1基準:㋐どのような場合に、(直前の契約と同一の労働条件での)「更新」の期待がない、といえるか?

裁判所は、<東光高岳事件、東京地裁R6.4.25.>における、次の「(労働者にとって)不利益な内容の提案」について、次のように述べ、使用者勝訴としました。

(1)提案1と提案2

(2)提案3と提案4

➡割愛します(興味のある方は、YouTube動画をご視聴下さい)

(3)裁判所の判断

・・・略・・・本件契約1は、定年後再雇用としては1回目の労働契約であって、本件契約1の期間満了時において有期労働契約の雇用通算期間は1年を経過したところであり、原告とAの間で本件契約1と同じ労働条件で労働契約を更新したことはなかったから、更新の回数や雇用通算期間に基づいて、本件契約1と同一の労働条件で更新されることが期待される状況ではなかった。
 また、A継続雇用規程では、定年後再雇用者の労働契約は期間1年とされ、労働条件については、再雇用者の希望を聴取した上で諸事情を勘案して個別に会社が契約の都度決定することとなっており(2(2)、別紙2(略)の7条1項、2項)、現実にも、定年後再雇用者の労働条件は、上記のとおり運用され、1回目の労働契約の賃金より50%以上低下した条件で次の契約を締結した者もいたのであるから(2(3))、A継続雇用規程において、1回目の労働契約と同じ労働条件による労働契約締結は保障されていなかったといえる。

さらに、Aは、平成30年度から3年連続経常赤字を続け、直近2期には連続で1億円近くの赤字を出し、従業員の昇給停止及び賞与削減などの経費削減措置を行っていたが、続く令和3年5月には、売却できなかった商品等を減損処理した結果2億8000万円余の債務超過になり、同年7月30日には、本件契約1の期間満了日の翌日をもって被告に吸収合併されることが決定した(2(4)(5))。Aの経営が厳しく債務超過となる見込みであること、Aが被告に吸収合併される可能性があることは、吸収合併の約5箇月前から原告を含む従業員に対する説明会で説明がされたほか(2(6)ア)、吸収合併が決定した後の説明会でも、Aが本件契約1の期間満了日に被告に吸収合併されることは説明がされていたから(2(6)ウ)、原告は、本件契約1の次の労働契約を締結する相手は、Aではなく、その地位を承継した被告となることを認識できる状況であった。

そして、AのD社長は、上記説明会において、原告を含む従業員に対し、被告に吸収合併された後、A継続雇用規程被告の定年後再雇用の制度である被告シニア嘱託規程の内容に変更することを伝え、その内容をAの従業員が見ることができるイントラネットに掲載していたところ(2(6)イウ)、被告シニア嘱託規程には、定年後再雇用者の賃金は基本給と諸手当であること、基本給は時給1200円を原則とすることが記載されていたから(2(6)イ、別紙3(略)の10条)、本件契約1の期間満了後の原告と被告との労働契約の賃金が、本件契約1の基本賃金月額30万3600円とはならず、これを下回るものとなることは客観的に避けがたい状況であったといえる。原告自身も、本件更新申込みをするに当たり、Aが被告に吸収合併されるのであれば、ある程度、労働条件を変更する提案がされる可能性があることを認識していた旨述べている(人証略)。

そして、被告は、被告シニア嘱託規程及び被告管理職賃金内規という定年後再雇用者が管理職又は非管理職として就労する場合の各労働条件についての基準を設けていたところ、A及び被告は、原告に対し、本件契約1の期間満了の約1箇月半前には、上記基準に沿った具体的労働条件を内容とする本件各提案を提示し、これが被告の定年後再雇用者に適用される条件に沿ったものであることを説明していた(2(7))。また、当時、被告の定年後再雇用者約120名は、被告の定年後再雇用者に適用される労働条件の基準に従い労働契約を締結しており、それ以外の条件で雇用された者はいなかった(2(8))。
 以上からすれば、原告は、本件契約1の期間満了時において、被告との間で本件契約1と同じ労働条件で労働契約が締結されると期待することについて、合理的理由があるとは認められない

第2基準:㋑更新拒絶につき合理的理由等があること

この点、裁判所は、<東光高岳事件、東京地裁R6.4.25.>において、次のように述べ、㋑更新拒絶につき合理的理由等があると判断しました。

本件各提案は、Aを吸収合併した被告の定年後再雇用者に適用される被告シニア嘱託規程及び被告管理職賃金内規に沿ったものであった(2(7))。本件各提案がされた令和3年当時、被告に所属していた約120名の定年後再雇用者は、いずれも、本件各提案と同じく被告シニア嘱託規程及び上記内規に沿った労働条件で労働契約を締結しており、これと異なる基準により労働契約を締結した者は一人もいなかった(2(8))。そして、仮に、Aに所属していた定年後再雇用者が、被告の定年後再雇用者よりも高い労働条件で労働契約を締結し、この情報が漏れた場合には、約120名もの定年後再雇用者において、著しい不公平感を抱き、その士気を損ね、意欲を低下させるおそれがあることは容易に想像できるから、これを回避するため、被告の定年後再雇用者と同一の条件とする必要性は高いといえる。

また、原告以外のAの定年後再雇用者3名が、被告の提案に同意したこと(2(8))、原告が担当していた業務は、被告が撤退予定の事業に属するものであり、業務が多忙となるというわけではなかったことも(2(7)イ)、本件各提案の合理性を肯定する事実といえる。
これらを考慮すると、本件提案1及び3が、本件契約1に係る労働条件と比較して、勤務日が週4日から週5日に増加する一方、基本賃金は約15%減少するものであり、本件提案2及び4は、賃金額が月額換算で約51%減少するものであり(第2の2(4)(8))、いずれも賃金の不利益が著しいこと、被告の業績は堅調であり、経費削減の必要性はないこと(2(10))を考慮しても、本件各提案には合理性があるといえる。

注目すべき点:被告(会社)は、業績堅調であった点

本事件で指摘すべきは、被告の経営状況です。

つまり、下記の裁判所認定のとおり、被告は、業績堅調かつ資産は健全であった点です。言い換えると、被告は、整理解雇を検討するような業績不振ではなかったという点です。

(10)被告の経営状況
 被告は、連結決算において、令和3年3月期は、経常利益34億0200万円、純利益14億0800万円、本件合併後の令和4年3月期は、経常利益41億7200万円、純利益32億7900万円となっており(以上の数値は百万円未満切捨)、業績は堅調、資産は健全であった(書証略)。

このように、被告は、業績堅調であったにもかかわらず、雇止めが有効とされた点が、(使用者にとって)有利な裁判例と評価できます(但し、全ての裁判所が同じように判断するとは限らない点は、留意すべきです)。

使用者の対応策

使用者としては、

⑴ 定年後再雇用の1年目の契約内容につき、慎重を期すべきです。上記裁判例<東光高岳事件、東京地裁R6.4.25.>のように、労働者が争ってくる場合がありますので、「2年目以降に労働条件を不利益にする」可能性を、できるだけ低くすることが実務的といえます。もっとも、この可能性を低くしすぎると、同一労働同一賃金の裁判例に違反したり、高年法違反の可能性もありますので、結論としては、バランスの良い契約内容にすべきです。

⑵ もし、定年後再雇用の2年目以降の契約を不利益にする場合、専門家への相談をすべきです。なぜなら、上記裁判例<東光高岳事件、東京地裁R6.4.25.>では、使用者勝訴となりましたが、事案によっては、使用者敗訴になる可能性もあるから、です。

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