メルマガ 2016年12月号

目次

①同一労働同一賃金の原則(その3):ハマキョウレックス事件

1 労働契約法20条の不合理な労働条件の相違についての裁判例(正社員と契約社員の賃金格差が違法として、77万円の支払命令)

メルマガ8月号においてご紹介した、正社員と契約社員との労働条件(各種手当等)の相違が法20条のいう「不合理」なものと言えるかが争われ、各種手当のうち、一部の手当につき不合理といえる、とする事件について、控訴審の詳細な内容が明らかになりましたので、ご紹介します。

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【判例】

事件名:ハマキョウレックス事件

判決日:大阪高判平成28年7月26日

【事案の概要及び第一審(差戻第一審)の判決内容】

メルマガ8月号記載の通り

***控訴審(差戻控訴審)判決の結論***

×:不合理

○:不合理ではない

 第一審控訴審
無事故手当×「優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得といった目的は、正社員の人材活用の仕組みとは直接の関連性を有するものではなく、むしろ、正社員のドライバー及び契約社員のドライバーの両者に対して要請されるべきものである」ため、「正社員のドライバーに対してのみ無事故手当月額1万円を支給し、契約社員のドライバーに対しては同手当を支給しないことは、期間の定めがあることを理由とする相違であり」、法20条の「不合理と認められるもの」に当たるとした。
作業手当×「作業手当が現在は実質上基本給の一部をなしている側面があるとしても、本件正社員給与規程において、特殊業務に携わる者に対して支給する旨を明示している以上、作業手当を基本給の一部と同視することはできない」ため、「正社員のドライバーに対してのみ作業手当月額1万円を支給し、契約社員のドライバーに対しては同手当を支給しないことは、期間の定めがあることを理由とする相違というほかなく」、法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たるとした。
給食手当×「給食手当は、あくまで従業員の給食の補助として支給されるものであって、正社員の職務の内容や当該職務の内容及び変更の範囲とは無関係に支給されるものである。」そして、「長期雇用関係の継続を前提とする正社員の福利厚生を手厚くすることにより優秀な人材の獲得・定着を図るという目的自体は、1審被告(会社※当事務所加筆。以下同じ。)の経営ないし人事労務上の判断として一定の合理性を有するものと理解することができるけれども、給食手当があくまで給食の補助として支給されるものである以上、正社員に対してのみ給食手当月額3500円を支給し、契約社員に対しては同手当を支給しないことは、期間の定めがあることを理由とする相違というほかなく」、法20条の「不合理と認められるもの」に当たるとした。
通勤手当××「通勤手当は、1審被告に勤務する労働者が通勤のために要した交通費等の全額又は一部を補填する性質のものであり、通勤手当のかかる性質上、本来は職務の内容や当該職務の内容及び変更の範囲とは無関係に支給されるものである。」また、「給与計算事務が煩雑になることを労働契約法20条の不合理性の判断に当たって考慮することは相当ではない。」
 「そうすると、労働契約法20条が施行された平成25年4月から同年12月まで、1審原告と同じ交通用具利用者で同じ通勤距離の正社員に対しては通勤手当月額5000円を支給し、1審原告には通勤手当月額3000円を支給することは、期間の定めがあることを理由とする相違というほかなく」、法20条の「不合理と認められるもの」に当たるとした。
住宅手当正社員は、「転居を伴う配転(転勤)が予定されており、配転が予定されない契約社員と比べて、住宅コストの増大(たとえば、転勤に備えて住宅の購入を控え、賃貸住宅に住み続けることによる経済的負担等)が見込まれる」。また、「長期雇用関係を前提とした配置転換のある正社員への住宅費用の援助及び福利厚生を手厚くすることによって、有能な人材の獲得・定着を図るという目的自体は、1審被告の経営ないし人事労務上の判断として相応の合理性を有するものと理解することができる。」
 正社員給与規程32条によれば、「住宅手当のほかに、転勤を命じられ赴任した者に対し、特に必要と認めた場合には、原則5万円を限度に家賃補給金を支給するものとされている」が、これが支給されることがあるとしても、正社員について「前記の住宅コストの増大が見込まれることに変わりはない。」
 「そうすると、正社員(22歳以上)に対して住宅手当月額2万円を支給し、契約社員に対しては同手当を支給しないこと」は、法20条の「不合理と認められるもの」には当たらないとした。
皆勤手当契約社員就業規則においては、雇用期間を定めた雇用契約を締結して雇い入れた者(嘱託、臨時従業員及びパートタイマー)については、それぞれ契約期間の更新があり得ると定められている。そして、これらの者の「給与は、基本給、通勤手当、時間外勤務手当、休日勤務手当及び深夜勤務手当で構成される(同規則28条)ところ、基本給は、時間給として職務内容等により個人ごとに定められ(同規則29条)、嘱託、臨時従業員及びパートタイマーには、昇給を原則として行わないものの、会社の業績と本人の勤務成績を考慮の上昇給することがある(同規則37条)とされている。」
 以上のような「契約社員就業規則の規定に鑑みると、契約社員が全営業日に出勤した場合には、1審被告の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあり得るほか、有期労働契約の更新時に基本給である時間給の見直し(時間給の増額)が行われることがあり得るのであり、現に、1審原告の時間給は,前提事実(3)及び(4)のとおり、本件有期労働契約当時の1150円から1160円に増額されていることを指摘することができる。」
 「以上の諸点に照らすと、1審被告が正社員に対してのみ皆勤手当月額1万円を支給し、契約社員には同手当を支給しない扱いをすること」は、法20条の「不合理と認められるもの」に当たらないとした。

注:手当の種類については、主たるものに限定して掲載しています。

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【コメント】

 1.判断基準について

本判決では、「労働契約法20条の不合理性の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるべきものである」とし、労働契約法20条の不合理性の判断枠組みについて、一般論及び差戻第一審と同様の枠組みを採用しています。この点については、オーソドックスなものであり、異論はありません。

2.主張立証責任について

本判決は、労働契約法20条の不合理性の判断について、以下の通り判示しました。「同条の不合理性の主張立証責任については、「不合理と認められるもの」との文言上、規範的要件であることが明らかであるから、有期労働契約者は、相違のある個々の労働条件ごとに、当該労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎付ける具体的事実(かっこ内省略※当事務所修正)についての主張立証責任を負い、使用者は、当該労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであるとの評価を妨げる具体的事実(かっこ内省略※当事務所修正)についての主張立証責任を負うものと解するのが相当である。」

上記判示部分からは、ある労働条件が労働契約法20条違反となるためには、原告(労働者)において「不合理である」ということの主張・立証を行う必要があることになります。言い換えれば、被告(使用者)において「合理的である」という主張・立証を行う必要まではない、ということになります。労働契約法20条の文言解釈としては、自然なものといえますが、結論として妥当と考えます。

3.結論(あてはめ)について

本判決では、差戻第一審と同様の判断基準を採用しつつも、結論においては、より具体的かつ詳細な事情を考慮し、差戻第一審では認められなかった無事故手当・作業手当・給食手当について、契約社員と正社員との差は不合理であるとの判断を下しています。

4.今後の企業としての対応について

この流れが踏襲されていくか否かはまだ不明ですが、本判決が企業の賃金設定に対して一定のインパクトを有する判決であることは明らかです。企業としては、もはや「契約社員だから」「正社員だから」という単純な形式的理由に基づくのではなく、その差の合理性について十分に検討した上で、契約社員及び正社員の賃金を設定していくことが、リスク対応になり、ひいては人材不足時代の対応策にもなると思います。

なお、上記主張立証責任の点からすれば、企業としては、理論的には、契約社員等と正社員の差が「不合理でない」ものか否か、というレベルで検討すれば良いとも思われます(言い換えれば、①合理的なもの、②合理的ではないが不合理とまではいえないもの、③不合理なもの、という3つの労働条件があるとしたときに、「①又は②のカテゴリー」と「③のカテゴリー」のいずれに該当するか、を検討すれば良いとも思われます。)。

しかし、裁判所の判断を事前に予測することは難しく、また上記②と③の区別は必ずしも明確でないため、よりリスクを低くするという観点からすれば、一歩進んで、契約社員等と正社員の差が「合理的」なものか否か、というレベル(言い換えれば、上記①か否か、というレベル)まで分析することも、検討に値するといえます。

②定年後再雇用:トヨタ自動車事件

2 (労務)事務職から清掃業務に変更する定年後再雇用が違法であるとして,約127万円の損害賠償の支払いが命じられた裁判例<判例>(名古屋高判平成28年9月28日)

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【判例】
事件名:トヨタ自動車事件
判決日:名古屋高判平成28年9月28日

【事案の概要】

被控訴人会社に雇用されていた原告が,定年退職後に再雇用されなかったことに関して,地位確認及び賃金等の支払いを求めるとともに,安全配慮義務違反又は不法行為に基づく損害賠償を請求した。なお,原告は組織的ないじめを受けたと主張し,代表取締役に対しても損害賠償を請求しているが,ここでは省略する。

被控訴人会社では,継続雇用制度に関する労使協定において,
「【1】本件労使協定3条各号に定める判断基準の全てを充たすものに対しては,定年後再雇用者就業規則に定めるスキルドパートナーとしての職務を提示し
【2】当該基準のいずれかを満たさない者のうち定年退職日が平成25年5月1日から平成26年4月1日までの者(控訴人は,このカテゴリーに含まれる。)に対しては,パートタイマー就業規則に定める職務を提示することとされている。」

労使協定3条に定める判断基準には,
「(ア)健康基準
 直近に行われた健康診断に基づく健康判定の結果が,「〈1〉~〈3〉判定」(4ランク中,上位3ランク)であること
(イ)職務遂行能力基準
 定年退職前に職務提示を判断する前の最も直近に評価された職務遂行能力が,以下のとおり,定年退職前の在籍資格に相応しい水準である,具体的には,職能考課の考課点が「D評価(資格の期待水準)以上」(5ランク中,上位4ランク)であること
(ウ)勤務態度基準
 定年退職日以前の3年間に,就業規則違反またはチームワークや職場秩序を乱すような行為がないこと」
の基準の全てを満たす者に対しては,スキルドパートナーとしての職務を提示することが定められていた。
再雇用の効果は,次のとおりであった。

「ア スキルドパートナーとしての再雇用の場合(乙18の2,乙20)
 雇用期間は,原則1年ごとの契約であり,契約期間は,定年退職後の再契約日(各月1日)より当該従業員の誕生日の属する月の末日(ただし,1日生まれは前月末日)までとする。
 契約更新は,本件選定基準を充足していることを再確認して判断し,最長の雇用期間は,昭和24年4月2日以降に生まれた者については,満65歳に達する誕生日の属する月の末日(ただし,1日生まれは前月末日)までとする。
イ パートタイマーとしての再雇用の場合(乙21)
 雇用契約期間は原則1年で契約更新は行わない(附則5条)。
 労働時間は原則として1日4時間とする(附則7条)。」

被控訴人会社は,「控訴人が再雇用の基準に達していないことを前提として,控訴人に対して,・・・定年後再雇用になる場合の労働条件について,次のとおり説明した上,・・・職務とこの処遇に同意されない場合は再雇用されないことなどを伝えた。

雇用期間 1年間(更新はなし)
所属 生技管理部
主な業務内容 シュレッダー機ごみ袋交換及び清掃(シュレッダー作業は除く),再生紙管理,業務用車掃除,清掃(フロアー内窓際棚,ロッカー等),その他被控訴人会社や上司の指示する業務
勤務形態・時間 ハーフタイム勤務(1日当たり4時間),午前8時から正午まで
賃金等 時給:1000円(昇給なし),賞与:支給することがある」

控訴人は,定年退職に際して,本件再雇用制度によりスキルドパートナーとして,被控訴人会社に再雇用されることを希望していたが,「控訴人は,再雇用されることなく,平成25年□月□日付けで,60歳に達したことにより,被控訴人会社を定年退職した。」

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。一部省略し,下線部は適宜追記しております。)】

1 本件選定基準の相当性について

原審は,本件選定基準について,

「健康基準が被告会社の恣意的な選別を助長するようなものではないことは明らかであって,同基準が相当であることについては,当事者間に特段の争いはない。」

「職務遂行能力基準については,対象が明確に定められている上,その対象となる職能考課においてどのような評価であれば基準に適合するかについても具体的に示されており,また,2WAYシートの上司評価等を通じて再雇用希望者においても自らが選定基準に適合しているか一定程度予見し得るものであるから,同基準は相当であるということができる。」

「現実には,職務遂行能力基準を満たしながら勤務態度基準だけ適合しないという事態はほとんど想定し難いことも考慮すると,勤務態度基準が健康基準や職務遂行能力基準に比して具体性や客観性に劣るところはあったとしても,全体的な構成も含めて考えれば,本件選定基準が事業者である被告会社が恣意的に継続雇用を排除しようとするものであって,不相当であるとまでいうことはできない。」
と判断した。
この判断は,控訴審においても維持されている。

2 再雇用選定手続違反について

原審は,
「手続違背により被告会社の再雇用拒否が無効であるという原告の主張は,いずれも採用できない。」
と判断し,この判断は,控訴審においても維持されている。

3 本件選定基準の充足について

原審は,

「本件再雇用制度においては,再雇用希望者のうち本件選定基準を満たす者について再雇用をすることとされているところ,本件選定基準を満たしているにもかかわらず被告会社が再雇用を承諾しなかった場合はともかくとして,本件においては,そもそも原告が本件選定基準を満たしていないものであるから,被告会社が原告に対して再雇用を承諾しなかったことが違法であるとか,権利の濫用であるとかいうことはできない。」

と判断し,控訴審においても「スキルドパートナーとしての」再雇用を承諾しなかったことについての違法性は否定する判断が維持されている。

4 安全配慮義務違反について

原審は,安全配慮義務違反を否定したが,控訴審は,

「ア 改正高年法は,継続雇用の対象者を労使協定の定める基準で限定できる仕組みが廃止される一方,従前から労使協定で同基準を定めていた事業者については当該仕組みを残すこととしたものであるが,老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられることにより(老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢は先行して引上げが行われている。),60歳の定年後,再雇用されない男性の一部に無年金・無収入の期間が生じるおそれがあることから,この空白期間を埋めて無年金・無収入の期間の発生を防ぐために,老齢厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢に到達した以降の者に限定して,労使協定で定める基準を用いることができるとしたものと考えられる。

 そうすると,事業者においては,労使協定で定めた基準を満たさないため61歳以降の継続雇用が認められない従業員についても,60歳から61歳までの1年間は,その全員に対して継続雇用の機会を適正に与えるべきであって,定年後の継続雇用としてどのような労働条件を提示するかについては一定の裁量があるとしても,提示した労働条件が,無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり,社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては,当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反するものであるといわざるを得ない。」

「イ これを本件について見ると,被控訴人会社が控訴人に対して提示した給与水準は,控訴人がパートタイマーとして1年間再雇用されていた場合,賃金97万2000円(4時間×243日×時給1000円)の他に,賞与として年間29万9500円が支給されたと推測されることが認められるから(弁論の全趣旨),控訴人が主張する老齢厚生年金の報酬比例部分(148万7500円)の約85%の収入が得られることになる。

 上記の給与等の支給見込額に照らせば,無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であるということはできない。

ウ 次に,被控訴人会社の提示した業務内容について見ると,控訴人に対して提示された業務内容は,シュレッダー機ごみ袋交換及び清掃(シュレッダー作業は除く),再生紙管理,業務用車掃除,清掃(フロアー内窓際棚,ロッカー等)というものであるところ,当該業務の提示を受けた控訴人が「隅っこの掃除やってたり,壁の拭き掃除やってて,見てて嬉しいかね。…これは,追い出し部屋だね。」などと述べているように,事務職としての業務内容ではなく,単純労務職(地方公務員法57条参照)としての業務内容であることが明らかである。

 上記の改正高年法の趣旨からすると,被控訴人会社は,控訴人に対し,その60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが,両者が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には,もはや継続雇用の実質を欠いており,むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから,従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り,そのような業務内容を提示することは許されないと解すべきである

 そして,被控訴人会社が控訴人に提示した業務内容は,上記のとおり,控訴人のそれまでの職種に属するものとは全く異なった単純労務職としてのものであり,地方公務員法がそれに従事した者の労働者関係につき一般行政職に従事する者とは全く異なった取扱いをしていることからも明らかなように,全く別個の職種に属する性質のものであると認められる。

 したがって,被控訴人会社の提示は,控訴人がいかなる事務職の業務についてもそれに耐えられないなど通常解雇に相当するような事情が認められない限り,改正高年法の趣旨に反する違法なものといわざるを得ない。

 この点につき,被控訴人らは,控訴人が本件選定基準(職務遂行能力及び勤務態度)に満たず,同僚や上司との平穏なコミュニケーション能力を欠き,さらに,1日4時間勤務で雇用期間も1年間のみという勤務形態を前提とすると,控訴人については清掃等の業務以外の業務を提示することは困難であったなどと主張するが,上記選定基準に基づく評価は,控訴人の従前の職務上の地位を前提としてのものであって事務職全般についての控訴人の適格性を検討したものではないし,被控訴人会社において控訴人について解雇の手続を取った形跡はなく,勤務規律及び遵守事項に違反する行為があったとして,けん責処分にしたにとどまるのであって(甲31),控訴人の問題点が事務職全般についての適格性を欠くほどのものであるとは認識していなかったと考えられる。しかも,被控訴人会社は,我が国有数の巨大企業であって事務職としての業務には多種多様なものがあると考えられるにもかかわらず,従前の業務を継続することや他の事務作業等を行うことなど,清掃業務等以外に提示できる事務職としての業務があるか否かについて十分な検討を行ったとは認め難い。これらのことからすると,控訴人に対し清掃業務等の単純労働を提示したことは,あえて屈辱感を覚えるような業務を提示して,控訴人が定年退職せざるを得ないように仕向けたものとの疑いさえ生ずるところである。

 したがって,控訴人の従前の行状に被控訴人らが指摘するような問題点があることを考慮しても,被控訴人会社の提示した業務内容は,社会通念に照らし労働者にとって到底受入れ難いようなものであり,実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められないのであって,改正高年法の趣旨に明らかに反する違法なものであり,被控訴人会社の上記一連の対応は雇用契約上の債務不履行に当たるとともに不法行為とも評価できる。

エ 以上によれば,被控訴人会社は,控訴人に対し,上記違法な対応により控訴人が被った損害について債務不履行責任及び不法行為責任を負うというべきである。」

と判断した。
そして,損害額としては,パートタイマーとして1年間再雇用されていた場合の金額として,127万1500円と認めた。

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コメント

上記裁判例は、定年後再雇用において、定年前と異なる業務内容にする場合、制度の趣旨に照らして限界があることを判断した点で注目されます。ただし、上記裁判例では、我が国有数の巨大企業の事案である点にも言及がされており、規模が小さい会社においては、人員配置の関係上、定年後再雇用の業務内容を定年前と異なる内容とすることが、より緩やかに認められると考えられますし、そのように解すべきです。

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