第1 何故、内部通報制度が必要なのですか?ハラスメント対策との違いは何ですか?
1 内部通報制度は、企業内の不正を早期に発見・是正して企業と従業員を守るための制度です。
組織内の法令違反等、不正行為を放置すれば、それが発覚したとき、取引先や消費者からの信用を失って経営が悪化し、最悪の場合、経営者や従業員は職や地位を失うことになるかもしれません。
これまでに数多くの不祥事が、従業員による行政機関や報道機関への内部告発によって発覚してきました。不祥事が発覚した結果、経営体制の抜本的見直しや市場からの撤退を余儀なくされた企業もありました。
企業が、組織内の不正行為に関する従業員等からの通報を受付け・調査・是正する制度として、「内部通報制度」があります。消費者庁が実施した実態調査では、不正発見の端緒の第1位は、「内部通報」で、「内部監査」を上回りました。
通報者の秘密を守ることや不利益な取扱いをしないことを従業員に約束し、内部通報制度を積極的に活用している企業は、投資家からも高く評価されています。

一方、不祥事が発覚した企業では、内部通報制度を導入していなかったり、導入していても、「従業員からの通報が一件もなかった」、「従業員が通報窓口の存在を知らなかった」など、制度が形骸化していることが多い状況です。
近年の SNS の普及により、企業内の不正行為といったネガティブな情報は、いったん外部に流出すると、瞬く間に拡散するようになりました。内部通報制度を積極的に活用すれば、企業内の不正行為を早期に発見し、情報が外部流出する前に是正を図ることができます。これは、企業に対する信用の失墜を防ぐとともに、企業と従業員を守ることに繋がります。
2 内部通報制度を導入していない場合、消費者庁の行政措置がとられる可能性があります。
2020年6月の公益通報者保護法の改正により、従業員数(アルバイト、契約社員、非正規社員、派遣労働者等も含む)が300人を超える企業には、内部通報制度の整備が義務付けられています。また、従業員数が300人以下の企業は、内部通報制度の整備に努めることとされています。
企業の規模や従業員数に関わらず、内部通報制度を整備していない場合、消費者庁の行政措置(報告徴収、助言、指導、勧告)の対象となり、企業名が公表される場合もあります。また、報告徴収に対して何ら報告をせず、または、虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料の対象になります。
💡消費者庁の対応
① 制度を未導入の場合
報告徴収、助言、指導、勧告、企業名公表
② 報告徴収に応じない又は虚偽報告をした場合
20万円以下の過料
3 ハラスメント対策との違いは何ですか。
従業員等からの通報を受付け・調査し、通報者を不利益な取扱いから保護する必要があるという共通点から、内部通報制度とハラスメント対策は混同されることがありますが、両者の目的は異なります。

既にハラスメント対策を実施している企業においては、上記にあるような両者の目的の違いを理解することが重要です。
第2 内部通報制度の導入手順を教えてください。

1 制度導入の検討
内部通報制度の導入は、経営トップの責務として取り組むべきものです。経営幹部を集めて、制度の導
入を検討しましょう。
2 内部通報対応の責任者と窓口設置場所の選定
内部通報を受け付け、調査を実施し、是正に必要な措置をとる責任者と担当部署を決めましょう。その際、
従業員が心理的に通報し易い部署や担当者を選びましょう。企業の外部に窓口を設置することやハラスメント窓口と兼ねることも可能です。
💡内部通報窓口を外部に設置する例
・通報受付専門会社に委託
・企業から独立した外部の弁護士に委託
・子会社、関連会社でグループ本社に窓口を一括
・事業者団体や同業者組合等で共通の窓口を設置
なお、経営幹部が関与する不正が発生する場合もあります。この場合に備えて、経営幹部から独立した報告体制を構築する必要があります。例えば、窓口の担当者が、通報内容を社外取締役や監査役などに報告する体制とすることが考えられます。

💡内部通報の受付方法
内部通報の受付方法は、対面の他、メールや電話、チャットなど、様々な手段があると、不正行為に関する情報収集に有効です。従業員が安心して通報できるよう、匿名での通報も受け付けましょう。
3 窓口や調査の担当者の指定と研修
内部通報に対応する責任者と担当者には、厳格な情報管理が求められます。公益通報者保護法では、通報者を特定する情報を業務として扱う者を「従事者」として指定することを求めており、従事者は守秘義務を負います。従事者が、通報者を特定する情報を漏らした場合、30万円以下の罰金の対象になります。
従事者となる者が、その責務を明確に認識できるよう、従事者を指定する際は、書面(従事者指定書)を交付しましょう。消費者庁ウェブサイトの「内部通報制度導入支援キット」の中に従事者指定書のサンプルと従事者向け研修動画があるのでご活用ください。

💡ある企業の従事者指定例
・法務担当役員、法務担当部長、窓口担当者を従事者として指定
・通報があった際、案件に応じて関係する部署の部長など、通報者を特定する情報を知り得る立場にある者を追加で従事者に指定
4 内部規定や対応マニュアル、受付表の準備
内部通報への対応にあたり、後述する注意点や守るべきことなどを内部規程や対応マニュアルで明文化する必要があります。消費者庁ウェブサイトの「内部通報制度導入支援キット」の中に内部規程のサンプルがあるので、自社の体制に合わせて作成してください。
この他、内部通報の受付票を準備しましょう。受付票のサンプルは「内部通報制度導入支援キット」に入っています。

5 従業員・役員等に周知と研修
内部通報制度が整ったら、窓口の設置場所や内部規程の内容について、従業員・役員等に周知しましょう。社員の関心が維持・向上するよう、企業経営者からも継続的に情報発信し、利用を促進することが大切です。消費者庁ウェブサイトには、従業員・役員等への研修にご利用いただける解説動画もあります。ぜひご活用ください。
💡情報管理に関する注意点
企業には、通報者を特定する情報がむやみに共有されないよう、対策を講じる義務があります。例えば、作成した記録は、パスワードを設定し、電子ファイルへのアクセスを制限する、紙の場合には、鍵をかけて保管・管理する等、閲覧できる人を最小限にしましょう。
なお、いくつかの情報を組み合わせることで、通報者が特定できるようなケースもありますので、ご注意ください。
第3 誰からの通報を受け付ければ良いですか。
公益通報者保護法上、通報を理由とする従業員の解雇等の不利益な取扱いは禁止されています。不利益な取扱いから保護される「従業員」には、正社員や公務員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマーの他、業務委託先の社員・アルバイトなどが含まれます。また、保護の対象には取締役や監査役などの「役員」も含まれます。「退職者」、つまり、現に勤務先で働いている従業員だけではなく、勤務先を退職してから1年以内の元従業員や、派遣先での勤務終了から1年以内の者も含まれます。
第4 具体的に、どのような通報を受け付ければ良いですか。
公益通報者保護法では、すべての法律への違反が通報対象になるわけではありません。「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護」に関わる法律(約500本)に規定する犯罪行為もしくは過料対象行為、または最終的に刑罰もしくは過料につながる行為が対象になります。

公益通報者保護法上、通報対象となる行為の例
・部長が会社の資金を横領している
・自動車修理工場で自動車を故意に傷つけ、保険金を不正請求している
・役員が業務委託先の社員に性犯罪行為をしている
・安全基準を超える有害物質が含まれる食品を販売している
・残業代の不払いや労災隠しをしている
・無許可で産業廃棄物の処分をしている
・リコールに相当する不良車が発生したにも関わらず、虚偽の届出をしている
・法令上、資格が必要な検査に無資格者を従事させている
💡公益通報対象外の通報の扱い方
公益通報者保護法上の通報対象に含まれない通報については、労働法の一般法理が適用され、権利の濫用と認められる出向命令や懲戒、解雇は無効となる場合があります。取引先や消費者、従業員からの信頼の維持・確保に向けて、企業経営者が、法令違反行為全般、自社の内部規程違反などに関する通報も積極的に受け付けて調査・是正し、通報者を不利益な取扱いから保護する姿勢を示すことが望ましいでしょう。
第5 通報者への対応にあたり、守るべきことは何ですか。
以下の事項を内部規程などで明確に定め、企業経営者からのメッセージ発信や研修などで従業員や役員等に周知しましょう。また、行政機関や報道機関等の外部に通報した従業員・役員等も「通報者」の対象となり得る点にも注意しましょう。
・通報を理由とする、通報者の解雇は無効です
(※)労働者派遣契約の解除も無効です。
・通報を理由とする、通報者に対する不利益な取扱いは禁止です
降格、減給、退職金の不支給・減額・没収、給与上の差別、訓告、自宅待機命令、退職の強要、専ら雑務に従事させること など、不利益な取扱いは禁止されています
(※)派遣先が派遣元に派遣労働者の交代を求めることなど、不利益な取扱いをすることも禁止されています。
・通報を理由とする、通報者に対する損害賠償請求はできません
・通報者を特定する情報は、厳重に取扱いましょう
・通報者を探してはいけません
・通報を妨害してはいけません
💡通報を受け付けた後の対応
通報を受け付けた場合、通報者には速やかに受付通知を行い、調査の結果、通報対象となった不正行為を是正した場合にはその旨を、通報対象となった事実がない場合にはその旨を速やかに通知しましょう。
第6 通報が1件もないのは良いことですか。
その場合、多くの従業員が通報することに不安を感じている可能性があります。経営トップのメッセージとして、通報者の秘密を守り、通報を理由とする不利益な取扱いをしないことを約束し、従業員等が職業倫理に照らして間違っていると思うことがあれば、「是非、声をあげて欲しい」と積極的に呼びかけましょう。
第7 内部通報制度の導入にあたって、サンプルはありますか。
1 内部通報制度の導入にあたって、内部規程例のサンプルはありますか。
内部規程例のサンプルは以下のホームページ上にございます。
はじめての公益通報者保護法 経営者の方へ 内部通報制度導入支援キット 消費者庁

ただし、あくまでもサンプルですので、各社の事情に合った内容にすべきです。そのため、必ず外部専門家に相談の上、修正してお使いください。
2 内部通報制度の導入にあたって、従業者指定書のサンプルはありますか。
従業者指定書のサンプルは以下のホームページ上にございます。
はじめての公益通報者保護法 経営者の方へ 内部通報制度導入支援キット 消費者庁



ただし、あくまでもサンプルですので、各社の事情に合った内容にすべきです。そのため、必ず外部専門家に相談の上、修正してお使いください。
3 内部通報制度の導入にあたって、従業者用受付表のサンプルはありますか。
従業者用受付表のサンプルは以下のホームページ上にございます。
はじめての公益通報者保護法 経営者の方へ 内部通報制度導入支援キット 消費者庁



ただし、あくまでもサンプルですので、各社の事情に合った内容にすべきです。そのため、必ず外部専門家に相談の上、修正してお使いください。
第8 公益通報者保護制度の詳細について教えてください。
公益通報者保護制度の詳細については、以下のホームページより詳細を閲覧することができます。
公益通報者保護制度の詳細 事業者の方へ 消費者庁
第10 「公益通報対応業務従事者の定め及び内部公益通報対応体制の整備等」について、①法定指針及び②指針の解説はありますか。
公益通報対応業務従事者の定め及び内部公益通報対応体制の整備等について、法定指針及びその指針の解説は以下のホームページより閲覧することができます。
公益通報者保護法と制度の概要 法定指針及び指針の解説 消費者庁
第11 公益通報者保護法の令和7年改正について、その概要を教えてください。
近年の事業者の公益通報への対応状況及び公益通報者の保護を巡る国内外の動向に鑑み、①事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上、②公益通報者の範囲拡大、③公益通報を阻害する要因への対処、④公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済を強化するための措置が講じられています。以下、各要点について改正内容をご紹介します。
1 事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上
(1)従事者指定義務に違反する事業者(常時使用する労働者の数が300人超に限る)に対し、現行法の指導・助言、勧告権限に加え、勧告に従わない場合の命令権及び命令違反時の刑事罰(30万円以下の罰金、両罰)を新設する。
(2)上記事業者に対する現行法の報告徴収権限に加え、立入検査権限を新設するとともに、報告懈怠・虚偽報告、検査拒否に対する刑事罰(30万円以下の罰金、両罰)を新設する。
(3)現行法の体制整備義務の例示として、労働者等に対する事業者の公益通報対応体制の周知義務を明示する。
2 公益通報者の範囲拡大
公益通報者の範囲に、事業者と業務委託関係にあるフリーランス(※1)及び業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスを追加し、公益通報を理由とする業務委託契約の解除その他不利益な取扱いを禁止する。
※1 フリーランスの定義は、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」第2条を引用して規定。
3 公益通報を阻害する要因への対処
(1)事業者が、労働者等に対し、正当な理由がなく、公益通報をしない旨の合意をすることを求めること等によって公益通報を妨げる行為をすることを禁止し、これに違反してされた合意等の法律行為を無効とする。
(2)事業者が、正当な理由がなく、公益通報者を特定することを目的とする行為をすることを禁止する。
4 公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化
(1)通報後1年以内(※2)の解雇又は懲戒は公益通報を理由としてされたものと推定する(民事訴訟上の立証責任転換)。
※2 事業者が外部通報があったことを知って解雇又は懲戒をした場合は、事業者が知った日から1年以内。
(2)公益通報を理由として解雇又は懲戒をした者に対し、直罰(6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、両罰)を新設する。法人に対する法定刑を3,000万円以下の罰金とする。
(3)公益通報を理由とする一般職の国家公務員等に対する不利益な取扱いを禁止し、これに違反して分限免職又は懲戒処分をした者に対し、直罰(6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)を新設する。
5 施行日
この法改正は令和8年12月1日より施行されます。
第12 公益通報者保護制度について、消費者庁による最新の情報があれば教えてください。
公益通報者保護制度(トップ) 新着情報 消費者庁
上記ホームページより消費者庁による公益通報者保護制度に関する最新情報を得ることができます。


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