【注目のケース】<「いじり」か「パワハラ」か。>
弁護士田村裕一郎です。
今、話題になっている、フジテレビ【新人アナ】容姿の会話の動画が炎上した問題について、コメントしたいと思います。
この件は、フジテレビの港浩一社長の定例会見が2024年11月29日、東京・台場の同局で行われ、この炎上問題について言及したようです。
問題となった、会話のやり取りは?
ざっくり言うと、次の内容のようです。
㋐新入アナ(2024年4月入社)である上垣皓太朗氏が「FNS 27時間テレビ」などのデザインのある(割と派手目な)Tシャツを着て、TV画面に映っていたところ、
㋑これを見た、先輩アナらが
❶「すごい似合わないね~、Tシャツが」、「ポップなデザインが似合わないね」、「じんべえ、とか似合いそう」などと述べ、
❷見た目について
「23歳なんだよね」「西暦何年?」などと聞いた上で、
新人アナが、「西暦2001年」(生まれ)と回答すると、
先輩アナらが、笑いながら、驚いた様子を見せ、
「信じられない」
「絶対嘘つきだ」
など述べたというもの、です。
ネットの反応は?
上記のやり取りがYouTubeで公開されると、容姿いじりが問題だ、ということで、炎上してしまったようです。
昔であれば、「これって、普通」と思われる言動でも、時代が進むと、「これは、ハラスメントだ」となり得ます。世間の(今の)感覚と、フジテレビの感覚には、ずれがあった、といえます。
ネットでの炎上を受け、フジテレビは、2024年10月31日、次のような文書を公表しました。
そもそも、パワハラか
この点については、厚労省の指針に、定義が記載されています。
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるものであり、
①から③までの要素を全て満たすものをいう。
今回の件は、②③が問題になりそうです。
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものか?
この点については、厚労省の指針に、次の点が記載されています。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、
社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指し、例えば、以下のもの等が含まれる。
・ 業務上明らかに必要性のない言動
・ 業務の目的を大きく逸脱した言動
・ 業務を遂行するための手段として不適当な言動
・ 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
この判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等)を総合的に考慮することが適当である。また、その際には、個別の事案における労働者の行動が問題となる場合は、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素となることについても留意が必要である。
上記のとおり、②かどうか、を判断するためには、様々な要素を総合判断する必要があります。そのため、今回の件が、パワハラか?(=少なくとも、②をみたすか?)については、上記のやり取りだけでは、実務上、判断しにくい、といえます。
しかし、ここで忘れてはいけないことは、次の点です。
㋐容姿に関するコメントは、果たして、必要なのか?
㋑必要だとしても、その表現で、良いのか?
また、
㋒(パワハラの被害者が)笑顔であったとしても、その笑顔の下では、「泣いているのではないか?」
㋓一般に、「新人」社員は、最も立場が弱いため、「言いたいこと」があっても、通常は、「何も言えないこと」が多いのではないか?
という視点です。
③労働者の就業環境が害されるものか?
この点については、厚労省の指針に、定義が記載されています。
「労働者の就業環境が害される」とは、
当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指す。
この判断に当たっては、
「平均的な労働者の感じ方」、
すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当である。
上記のとおり、平均的な労働者の感じ方がポイント、とされています。
平均的な労働者の感じ方、については、(仮に訴訟になれば)裁判官が判断することになります。
今回の場合、どのように判断するか、容易ではないと思われますが、
今回の事情として、
㋐新人アナ1名、対、先輩アナら複数名という構図があること
㋑全国配信されていること
という視点も忘れてはいけません。また、
平均的な労働者の感じ方は、時代によって、変わる
という点も、大切です。私の感覚だと、20代の感じ方と、50代の感じ方では、大きく異なるという印象です。
企業はどうすべきか
フジテレビの対応がこれで良かったのか、は別にして、
(TV業界という特殊な業界ではない)一般的な業界における、一般的な事業会社の場合、
研修を定期的に実施すべき、
と思います。
私は、「容姿に関する、いじり、は行うべきではない」と社員研修で話すことが多い、です。
「容姿」は、生まれついてのもの、ですので、自身の努力では、改善できません。その「容姿」について、他人から言われると、表向きは、笑顔であっても、心の中では、悲しんでいることが多い、です。もちろん、「容姿いじり」をしてほしい、と希望している人は、いると思いますが、それを上司が、職場の中で、見極めるのは、難しいですし、上司や会社にとって、(容姿いじりは)リスクが高い、です。
最近は、どんどん、「ハラスメント」に関する考え方が、変化しています。
ハラスメント加害者は、よく、「私の時代では、大丈夫だったのに。」とか、「なぜ、自分だけが、加害者扱いされるのか」と言われます。
しかし、時代が変わり、人が変わり、考え方が、変わります。
そのため、企業としては、数年に1度は、ハラスメント研修を実施し、社員の意識を変えるべきです。
新たな被害者を生まないために。
加えて、新たな加害者を生まないために。
注目すべき点:先輩アナらの対応
報道によると、先輩アナらは、新人アナに謝罪したようです(㊟1)。おそらく、先輩アナらとしても、「パワハラをしよう」という意識はなかった、と思われます。むしろ、「良かれと思ってやったのに、予想に反して、ネット炎上して、びっくりした」というのが、本音ではないでしょうか。
人は誰でも、失敗をしてしまうもの。
失敗しない人は、いません。
こういった時に、企業がむやみに、「懲戒処分をかける」と即断するのではなく、可能な限り、ソフトランディングを目指すのも、経営者手腕の見せ所でもあります(もちろん、悪質事案については、厳正に対処すべきです。このあたりの「さじ加減」は難しいところですし、業界特有の事情もありますので、外部専門家の意見を聞きながら、適切に対応すべきです)。
動画解説
フジテレビの件ではありませんが、パワハラ一般についての動画に興味のある方は、下記YouTubeをご視聴下さい。
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