フリーランス保護法への企業の対応❶ポイント解説(2024年7月号)

目次

改正の要約

改正の概要としては、

1、 事業者間の業務委託における「個人」と「組織」の間における交渉力や情報収集力の格差、それに伴う「個人」たる受注事業者の取引上の弱い立場に着目し、発注事業者とフリーランスの業務委託に係る取引全般に妥当する、業種横断的に共通する最低限の規律を設けること、

2、それによって、フリーランスに係る①取引の適正化②就業環境の整備を図ること、

です。

概要❶本法律の対象①

1、 本法律は、(特定)業務委託事業者と特定受託事業者(※)との間の「業務委託」に係る取引に適用されます。

2、「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託する行為をいい、委託とは、物品・情報成果物・役務の仕様・内容等を指定してその製造や作成・提供を依頼することをいいます。

3、つまり、事業者間(BtoB)における委託取引が対象です。
(※)特定の事業者との関係で従業員として雇用されている個人が、副業で行う事業について、事業者として他の事業者から業務委託を受けている場合には、この法律における「特定受託事業者」に該当します。

概要➋本法律の対象②

1、本法律は、従業員を使用せず一人の「個人」として業務委託を受ける特定受託事業者と、従業員を使用して「組織」として業務委託をする特定業務委託事業者との間の業務委託に係る取引に適用されます。

2、「従業員を使用」とは、週所定労働時間が20時間以上かつ継続して31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇用することをいいます。

概要❸本法律の対象者と規制内容の概要

1、取引条件の明示は当事者の認識の相違を減らしてトラブルの未然防止に資し、発注事業者と受注事業者双方に利益があることから、個人に業務委託をする者には、従業員の有無を問わず、業務委託事業者に対して取引条件の明示の義務を課しています。

2、個人たる受注事業者(従業員なし)と組織たる発注事業者(従業員あり)の間で交渉力・情報収集力の格差があり、「個人」たる受注事業者が取引上の弱い立場にあることを踏まえ、特定業務委託事業者(従業員あり)に対して期日における報酬支払、募集情報の的確表示、ハラスメント対策の義務を課しています。

3、加えて、一定の期間以上の業務委託である場合(※)は、特定受託事業者は発注事業者との間で一定の経済的依存・従属関係が生じていること等から、受領拒否等の禁止、育児介護等の配慮、中途解除等の予告・理由開示の義務を課しています。

(※)契約の更新により一定の期間以上の期間継続して行うこととなる業務委託も含みます。

概要❹一定期間以上の業務委託契約についての考え方(5条、13条・16条)

1、報酬の減額等の禁止行為(5条)は「1か月以上」、

2、育児介護等と業務の両立に対する配慮(13条)と中途解除の事前予告等(16条)は「6か月以上」

の期間の業務委託をする場合が対象となります。

概要❺取引条件の明示義務(3条)

1、業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法により明示しなければなりません。

2、明示すべき事項は、次のとおりです。

<明示すべき事項>
①業務委託事業者及び特定受託事業者の商号、氏名若しくは名称又は事業者別に付された番号、記号その他の符号で
あって業務委託事業者及び特定受託事業者を識別できるもの
②業務委託をした日
③特定受託事業者の給付(提供される役務)の内容
④特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日等
⑤特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所
⑥特定受託事業者の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日
⑦報酬の額
⑧支払期日
⑨現金以外の方法で報酬を支払う場合の明示事項

3、業務委託事業者が取引条件を電磁的方法により明示した場合、特定受託事業者から書面の交付を求められたときは、遅滞なく、書面を交付しなければなりません。

4、特定受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合は、この限りではありません。

概要❻期日における報酬支払義務(4条)

1、特定業務委託事業者は、検査をするかどうかを問わず、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定めてそれまでに支払わなければならりません。
2、支払期日を定めなかった場合などには、次のように支払期日が法定されます。
①当事者間で支払期日を定めなかったとき ⇒ 物品等を実際に受領した日
②物品等を受領した日から起算して60日を超えて定めたとき ⇒ 受領した日から起算して60日を経過した日の前日

3、なお再委託の例外も、あります。

概要❼特定業務委託事業者の遵守事項(5条)①

1、特定受託事業者との1か月以上の業務委託に関し、以下①~⑤の行為(1項1~5号)をしてはなりません。
(※)契約の更新により1か月以上の期間継続して行うこととなる業務委託も含む。

①受領拒否
特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく給付の受領を拒むこと(1項1号)
②報酬の減額
特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく業務委託時に定めた報酬の額を減ずること(1項2号)
③返品
特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく、給付を受領した後、その給付に係る物を引き取らせること(1項3号)
④買いたたき
特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬の額を不当に定めること(1項4号)
⑤購入・利用強制
特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること(1項5号)

概要❽特定業務委託事業者の遵守事項(5条)②

特定受託事業者との1か月以上の業務委託に関し、以下①~②の行為(2項1~2号)によって特定受託事業者の利益を不当に害してはなりません。
(※)契約の更新により1か月以上の期間継続して行うこととなる業務委託も含みます。

①不当な経済上の利益の提供要請
自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること(2項1号)

②不当な給付内容の変更及び不当なやり直し
特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後若しくは特定受託事業者から役務の提供を受けた後に給付をやり直させること(2項2号)

概要❾募集情報の的確表示義務(12条)

➢ 特定業務委託事業者は、広告等(※1)により特定受託事業者の募集を行うときは、その情報(※2)について、
・虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならず、
・正確かつ最新の内容に保たなければなりません。


(※1)具体的には、 ①新聞、雑誌に掲載する広告、②文書の掲出・頒布、③書面の交付、④ファックス、⑤電子メール・メッセージアプリ等(メッセージ機能があるSNSを含む。)、⑥放送、有線放送等(テレビ、ラジオ、オンデマンド放送、ホームページ、クラウドソーシングサービスのプラットフォーム等)。
(※2)具体的には、①業務の内容、②業務に従事する場所・期間・時間に関する事項、③報酬に関する事項、④契約の解除・不更新に関する事項、⑤特定受託事業者の募集を行う者に関する事項。

概要➓育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(13条)

1、特定業務委託事業者は、6か月以上の業務委託(※1)について、特定受託事業者からの申出に応じて、特定受託事業者が育児介護等と業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければなりません。(※2、3)
2、 特定業務委託事業者は、6か月未満の業務委託について、特定受託事業者からの申出に応じて、特定受託事業者が育児介護等と業務を両立できるよう、必要な配慮をするよう努めなければなりません。


(※1)契約の更新により6か月以上の期間継続して行うこととなる業務委託も含みます。
(※2)特定業務委託事業者は、特定受託事業者からの申出の内容を把握した上で、配慮の内容を検討し、実施しなければなりません。検討の結果、配慮をやむを得ず実施できない場合は、特定受託事業者に対し、実施できない理由を説明する必要があります。
(※3)①特定受託事業者からの申出を阻害すること、②特定受託事業者が申出をしたこと又は配慮を受けたことのみを理由に契約の解除その他の不利益な取扱いを行うことは、「特定業務委託事業者による望ましくない取扱い」に該当します。

概要⓫ハラスメント対策に係る体制整備義務(14条)

1、特定業務委託事業者は、ハラスメント行為(※1)により特定受託業務従事者の就業環境を害することのないよう相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければなりません。
2、特定業務委託事業者は、特定受託業務従事者がハラスメントに関する相談を行ったこと等を理由として不利益な取扱いをしてはなりません。
(※1)業務委託におけるセクシュアルハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメント、パワーハラスメント

概要⓬中途解除等の事前予告・理由開示義務(16条)

1、特定業務委託事業者は、6か月以上の期間行う業務委託(※1)に係る契約を中途解除したり、更新しない場合には、特定受託事業者に対し少なくとも30日前までにその旨を予告をしなければなりません(※2、3)
2、 予告の日から契約満了までの間に、特定受託事業者が契約の中途解除や不更新の理由の開示を請求した場合には、特定業務委託事業者は、これを開示しなければなりません(※4)


(※1)契約の更新により6か月以上の期間継続して行うこととなる業務委託も含みます。
(※2)次の①~⑤の例外事由に該当する場合は、予告は不要となります。
①災害などのやむを得ない事由により予告が困難な場合、②特定受託事業者に再委託をした場合で、上流の事業者の契約解除などにより直ちに解除せざるを得ない場合、③業務委託の期間が30日以下など短期間である場合、④基本契約を締結している場合で、特定受託事業者の事情で相当な期間、個別契約が締結されていない場合、⑤特定受託事業者の責めに帰すべき事由がある場合
(※3)契約の不更新とは、不更新をしようとする意思をもって当該状態になった場合をいい、例えば①切れ目なく契約の更新がなされている又はなされることが想定される場合であって、当該契約を更新しない場合や、②断続的な業務委託であって、特定業務委託事業者が特定受託事業者との取引を停止するなど次の契約申込みを行わない場合が該当します。一方、例えば③業務委託の性質上一回限りであることが明らかである場合や、④断続的な業務委託であって、特定業務委託事業者が次の契約申込みを行うことができるかが明らかではない場合には、契約の不更新には該当しません。
(※4) ①第三者の利益を害するおそれがある場合又は②他の法令に違反することとなる場合には、理由の開示は不要です。また、事前予告の例外事由に該当する場合も理由開示の請求対象にはなりません。
(※5)事前予告や理由開示は、①書面の交付、②ファクシミリ、③電子メール等のいずれかの方法で行う必要があります。

概要⓭違反行為への対応等(6条~9条、11条、17条~20条、22条、24条~26条)

1、本法律に違反する事実がある場合、特定受託事業者は、本法律の所管省庁(公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)に対しその旨を申し出ることができます(※1)。
2、特定受託事業者が公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の窓口に申出をしたとき、業務委託事業者はそれを理由に不利益取扱いをしてはなりません。
3、法所管省庁は、申出の内容に応じ、必要な調査(報告徴収・立入検査)を行い、申出の内容が事実である場合、本法律の規定に則って、指導・助言のほか、勧告を行い、勧告に従わない場合には、命令(※2)・公表を行います。

(※1)オンラインや公正取引委員会(本局・地方事務所等)・経済産業局・都道府県労働局で申出が可能(詳細については、今後、関係省庁のHPで公表予定)。
(※2)命令違反には50万円以下の罰金

参考資料

1、全般的な参考資料は、こちらです。

2、上記の記事内容の参考資料は、こちらです。

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