大学の専任講師の無期転換

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【最高裁の弁論、直前】<学校法人羽衣学園事件>

弁護士田村裕一郎です。いよいよ、2024年10月3日、最高裁の弁論が開かれます。

今回は、大学等の専任講師の無期転換申込権の発生は、通算契約期間につき、5年超か?10年超か?について、記事を書きました。

大学等の専任講師の無期転換申込権の発生は、通算契約期間につき、何年か?

無期転換申込権は、原則として、通算契約期間5年超で、発生します。
しかし、以下に該当する、任期の定めがある労働契約を締結した教員等の場合、通算契約期間10年超で、発生します。

先端的、学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性に鑑み多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき

では、なぜ、上記の場合、大学等に有利なルール(=言い換えると、労働者に不利なルール)があるのでしょうか?

その理由は、上記の法律(大学の教員等の任期に関する法律)の目的にあります。すなわち、第1条に次の規定があります。

第一条 この法律は、大学等において多様な知識又は経験を有する教員等相互の学問的交流が不断に行われる状況を創出することが大学等における教育研究の活性化にとって重要であることにかんがみ、任期を定めることができる場合その他教員等の任期について必要な事項を定めることにより、大学等への多様な人材の受入れを図り、もって大学等における教育研究の進展に寄与することを目的とする。

つまり、「教育研究の進展」への寄与を目的として、「多様な人材の受け入れ」を図るためには、通算契約期間につき、「10年超」とする形で、大学等に有利なルールが必要だから、というわけです。

ただ、この場合、無期転換ルールの趣旨である「有期労働者の雇用の安定」という趣旨が後退します。

そのため、整理すると、この問題は、

「有期労働者の雇用の安定」 VS 「教育研究の進展」

の、どちらを重視すべきか?という問題といえます。

そのため、下記のとおり、本事件では、1審と控訴審で、判断が分かれているのです。

事実関係

本事件の事実関係を図表にしました。

下記図表のとおり、本事件の専任教員は、2013年4月から3年間の有期契約、2016年4月から3年間の有期契約を締結しています。そのため、通算すると、6年間の通算契約期間ですので、5年超です。

この場合、無期転換ルールでは、5年超ですので、専任教員に無期転換申込権は発生しています。他方、上記特例が適用されると、10年超ですので、専任教員に無期転換申込権は発生していないことになります。

そのため、大学等の専任教員に、特例が適用されるか、具体的には、大学等の専任教員が「多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職」といえるか、が問題となったのです。

一審と控訴審の判断の内容

判断の内容は、次のとおりです。1審は、大学勝訴であり、控訴審は、大学敗訴です。それぞれの項目ごとに、裁判所の理由を整理してみました。

(1)講師の地位

1審:〇【大学勝訴】控訴審:×【大学敗訴】
❶…略…原告は,本件労働契約に基づき,被告大学において専任教員と称される「講師」の地位にあったところ(略), 「講師」は,学校教育法上,専攻分野について学生を教授し,その研究を指導し,又は研究に従事するものとされる「教授」又は「准教授」に準ずる職務に従事する職である旨位置付けられており(略),多様な人材の確保が特に求められるべき教育研究組織の職たり得るものである。同号は、「先端的、学際的又は総合的な教育研究であること」を挙げているが、文理上、これは例示であり、いずれにしても当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性にかんがみ、多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職であることが必要である(流動型)。そして、大学教員任期法4条1項が、私立大学については、任期を定めることが合理的な類型であることを明確にする趣旨で立法され、その後、労働契約法18条1項所定の通算契約期間を伸張するための要件とされていることを考慮すると、上記の教育研究の職に該当すると評価すべきことが、例示されている「先端的、学際的又は総合的な教育研究であること」を示す事実と同様に、具体的事実によって根拠付けられていると客観的に判断し得ることを要すると解すべきである。

(2)分野の専門性、授業の量、他の教育研究、学内行政業務

1審:〇【大学勝訴】控訴審:×【大学敗訴】
❶…略…また,原告は,介護福祉士養成関係を中心とした分野の講座を担当するなどしていたものであるところ(略),その分野自体,一定の専門性があるものと認められるほか,原告の担当科目数は,1セメスターあたり週6~7授業科目数(コマ),年間12~14授業科目数(コマ)であり,所属学部のカリキュラムの学年進行,当該年度の教育方針等の理由により,これを下回る場合には,他の教育研究,学内行政業務で補うことも予定されているものであり(略),原告の専攻ないし担当分野について一定の広がりがあるものということもできる。

本件講師職の募集の目的は、被告大学において介護福祉士の養成課程を維持するため、それに必要な経歴及び資格等を有する人材を募集することにあったと認められる。
 そして、本件講師職への応募資格としての実務経験は、かかる養成課程の担当教員につき厚生労働省が指定しているために求められており、人材交流の促進や実践的な教育研究のために実務経験を有する人材が求められていたものではない。同課程には介護系領域の専任教員を置くことが求められており、そのような教員を安定的に確保することがむしろ望ましいといえ、本件講師職に就く者を定期的に入れ替えて、新しい実務知識を導入することを必要とする等、本件講師職を任期制とすることが職の性質上、合理的といえるほどの具体的事情は認められない

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控訴人aが担当していた授業の大半は、介護福祉士養成課程のカリキュラムに属するものであり、その内容は、介護福祉士としての基本的な知識や技術を教授し、実際の福祉施設における介護実習に向けた指導を行い、また、国家試験の受験対策をさせるものであった。
 これらの授業内容に照らすと、本件講師職について、実社会における経験を生かした実践的な教育という側面は存在するものの、それは、飽くまでも介護福祉士の養成という目的のためのものであり、介護分野以外の広範囲の学問分野に関する知識経験が必要とはされていない。また、国家試験の受験対策においては、研究という側面は乏しい

(3)法律案を審議する(委員会)答弁

1審:〇【大学勝訴】
「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律案」を審議する第185回参議院文教科学委員会(平成25年12月5日)において,同委員会の委員がした,例えば,大学で専らフランス語,中国語等の語学のみを教授し,大学との労働契約に基づき,学生の教育,試験及び評価という業務を行う非常勤講師が,10年特例の適用対象である「研究者」に該当するか否かといった判断はいかに行われるのかとの趣旨の質問に対し,同法案の提案者は,最終的には個別の判断となるが,講師は,学校教育法上,常勤,非常勤を問わず,教育研究を行う教授又は准教授に準ずる職務に従事する職である旨位置付けられていることを踏まえると,基本的に「研究者」に該当する旨の答弁をしている

(4)まとめ

1審:〇【大学勝訴】控訴審:×【大学敗訴】
❶…略…また,最高学府とされる大学における教員であって、教授又は准教授に準ずる職務に従事する職にあるだけでなく,原告の担当する分野の専門性担当する授業の内容・量,他の教育研究,学内行政業務が予定されていることを踏まえると,大学教員任期法4条1項1号に該当すると解されることは前記(ア)のとおりである。
本件講師職の募集経緯職務内容に照らすと、実社会における経験を生かした実践的な教育研究等を推進するため、絶えず大学以外から人材を確保する必要があるなどということはできず、また、「研究」という側面は乏しく多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職に該当するということはできない。

最高裁判断は?

大学が敗訴した控訴審の判断について、最高裁が、弁論を開くようですので、おそらく、大学に有利な判断が示されると予想されます。

大学等としては、最高裁の判断内容を踏まえ、今後の方針を決定すべきです。

大学等の場合、「無期転換ルールにおける通算契約期間が、何年か?」によって、「一番最初の」有期契約締結時に、「更新上限は、10年です」とか「更新上限は、5年です」といった労働条件明示の内容を決めるのが一般的です。そのため、今回の最高裁判決の内容は、大学等の専任講師との有期契約に、非常に大きなインパクトを与えます。

本事件は、専任講師の事案ですが、非常勤講師の有期契約にも重要な影響を与えます。

本記事は、2024年9月25日に書いていますが、最高裁の弁論は、2024年10月3日であり、判決はその後ですので、その内容は、注目すべきです。

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