①(労務×同一労働同一賃金×基本給×定年後再雇用)
定年後再雇用者の基本給の減額について、定年直前の基本給の60%を下回るのは、労契法20条違反にあたると判断された例
【判例】
事件名:名古屋自動車学校事件
判決日:名古屋地判令和2年10月28日
【事案の概要】
被告の定年後再雇用者の基本給の減額が、労契法20条違反に該当するか、該当するとしても、何割を下回る金額が違法か、などが問題となった事案
【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。下線部、①②などの数字、装飾等は引用者による。)】
1 基本給の減額について
定年後再雇用者の基本給について、(40%を超える額を)減額し、60%未満となることは、不合理な待遇差に該当する、と判断された。
2 賞与やその他の手当について
減額について、不合理な待遇差に該当する、と判断された。
3 参照資料
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65548720Y0A021C2CC1000
【結論】
裁判所は、被告(会社)に対し、合計625万円の支払いを命じた。
【コメント】
定年の前後で、定年後再雇用者の仕事の内容や責任の重さ等を変更した場合、基本給や賞与の減額は、適法になりやすいです。他方、定年の前後で、仕事の内容や責任の重さ等が変わらない場合、基本給や賞与の減額は、違法になりやすいといえます。
今回、60%という基準が示された点は、画期的であるものの、使用者にとっては不利な裁判例ですので、企業としては、改めて、定年後再雇用者の仕事の内容や責任の重さなどを再考すべきです。
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②(労務×長時間労働×安全配慮義務×損害賠償)
被告(会社)が原告に対し、(1)1年以上にわたって、ひと月30時間ないし50時間以上に及ぶ心身の不調を来す可能性があるような時間外労働に原告を従事させたこと、(2)36協定が締結されていなかったこと、(3)被告(会社)が原告の労働状況について改善措置を講じていないこと、等を考慮し、10万円の損害賠償義務が認められた例
【判例】
事件名:アクサ生命保険事件
判決日:東京地判令和2年6月10日
【事案の概要】
被告会社の従業員である原告が、被告に対し、長時間労働等について、被告が使用者として適切な対応を怠ったなどとして、使用者責任等による債務不履行責任に基づく慰謝料等の各支払いを求めた事案
【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。下線部、①②などの数字、装飾等は引用者による。)】
1 被告の安全配慮義務違反について
「P9支社長によるパワーハラスメントを認めるに足りる証拠はないものの(上記3),本件期間における原告の毎月の時間外労働の時間数(1日8時間超過分と週40時間超過分の合計)は,別紙2のとおりである(上記5)。
そして,
(i) 原告が平成27年1月に育成部長に昇任して以降,
P9支社長は
・原告が所定労働時間を超えて就労していること,
・実際の退社時刻が午後7時ないし8時であったこと
を認識しており(証人P9 24~26p),
P8営業所長も,
・原告が短時間勤務の適用を事実上受けていたことについては当初から知っていたものの,原告の退社時刻はおおむね午後6時から8時頃であったとの認識を述べていること(証人P8 26~28p),
(ii) 平成28年11月24日の時点で,被告の営業社員労働組合が,各地区の「営業管理職オルグ」において,多くの営業管理職から深刻な長時間労働の実態について苦情が出されている状況を踏まえ,営業管理職の勤務状況等に関するアンケートを実施していること(上記1(4)ア),
(iii) 原告は,P9支社長に対し,遅くとも平成29年3月頃には,長時間労働について相談し,その改善を求めたこと(上記1(3)エ),
(iv) 原告は,平成29年5月11日,P14統括部長に対し,
・P10に対する原告のパワーハラスメントに関する事情聴取を受けた際,帰宅時間が20時ないし22時になってしまうこともあったこと,
・育児を理由とする短時間勤務制度があるから入社したが同制度の利用を認めてもらえないこと,
・P9支社長及びP8営業所長から,営業管理職は休日活動の振替休日を取らなくてよいと指導されたこと,
・育成部長になってから当初の一年間は全く休暇を取れなかったこと
等を伝えたこと(上記1(3)コ),
(v) 平成29年10月30日,P4営業所が立川労働基準監督署から「営業社員に関して,週40時間を超え労働させているにもかかわらず,法定の率以上の割増賃金を支払っていないこと」「育成部長職の者に対して,法定の率以上の割増賃金を支払っていないこと」等を理由とする是正勧告を受けたこと(上記1(4)イ)(なお,同監督署からの勧告は,長時間労働の是正を直接促すものではないが,週40時間を超えて労働させていることの指摘を含んでおり,安全配慮義務違反を根拠付ける一事情として評価するのが相当である。),
(vi) 被告が組合との間で時間外労働及び休日労働に関する労使協定を締結したのは平成30年5月18日であること(上記1(4)ウ)
等の事情が認められるのであり,
これらを踏まえると,被告は,遅くとも平成29年3月から5月頃までには,三六協定を締結することもなく,原告を時間外労働に従事させていたことの認識可能性があったというべきである。
しかしながら,被告が本件期間中,原告の労働状況について注意を払い,事実関係を調査し,改善指導を行う等の措置を講じたことを認めるに足りる主張立証はない(P9支社長が,平成27年12月8日に,営業所長に提出すべきリストの作成業務について,時間外には行わないようにとのメール(乙27)を原告に送信していること等の事情は上記認定を左右するものとはいえない。)。
したがって,被告には,平成29年3月から5月頃以降,原告の長時間労働を放置したという安全配慮義務違反が認められる。」
2 損害額について
「原告が長時間労働により心身の不調を来したことについては,疲労感の蓄積を訴える原告本人の陳述(甲25)に加え,抑うつ状態と診断された旨の平成29年4月1日付け診断書(甲28)があるものの,これを認めるに足りる医学的証拠は乏しい。
しかし,原告が,結果的に具体的な疾患を発症するに至らなかったとしても,被告が,1年以上にわたって,ひと月当たり30時間ないし50時間以上(1日8時間超過分と週40時間超過分の合計)に及ぶ心身の不調を来す可能性があるような時間外労働に原告を従事させたことを踏まえると,原告には慰謝料相当額の損害賠償請求が認められるべきである。」
【結論】
「本件に顕れたすべての事情を考慮すれば,被告の安全配慮義務違反による債務不履行責任に基づく慰謝料の額としては,10万円をもって相当と認める。」
【コメント】
本件は、1か月100時間未満、2~6か月平均80時間という時間外労働の上限規制を大きく下回る時間外労働時間であった場合において、安全配慮義務違反が認められた事案であり、注目すべきであることから、紹介します。
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