メルマガ2020年1月号

目次

①(労務×同一労働同一賃金×賞与×学校法人)期限の定めのある従業員の賞与と期限の定めのない従業員の賞与についての相違が、適法とされた例(学校法人N事件:東京地裁令和1年5月30日)

【判例】

事件名:学校法人N事件
判決日:東京地裁令和1年5月30日

【事案の概要】

 本件は、N大学等を設置し、運営する学校法人である被告との間で期間の定めのある労働契約を締結し、当該労働契約に基づいて本件大学の非常勤講師として現に就労している原告が、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結している本件大学の専任教員との間に、賞与等の支給に関して、労契法20条の規定に違反する労働条件の相違がある旨を主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、差額賃金等の支払を求めた事案である。

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。)】<下線部は、当事務所が加筆>

1 職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲について

 「・・・原告の被告との間の労働契約に基づく業務の内容は,上記第2の2(5)の前提事実のとおり,定められた契約期間内に,定められた担当科目及びコマ数の授業を行うというものであり,当該業務に伴う責任の程度も,当該授業を行うに伴うものに限られる。

 他方で,本件大学の専任教員の被告との間の労働契約に基づく業務の内容は,上記第2の2(3)の前提事実のとおり,定められた担当科目及びコマ数の授業を含む専攻分野についての教育活動を行うこと(本件就業特則第3条第2号)にとどまらず,専攻分野についての研究活動を行うこと(同条第1号)、教授会で審議すること(同条第3号),任命された大学組織上の役職(同条第4号),各種委員会等の委嘱され,又は任命された事項(同条第5号),学生の修学指導及び課外活動の指導(同条第6号),その他学長が特に必要と認めた事項(同条第7号)に及ぶものであって,次の(ア)及び(イ)のとおり,その具体的な内容を見ても,上記の原告の業務とはその内容が大きく異なるものであり,専任教員は,授業を担当するのみならず,大学運営に関する幅広い業務を行い,これらの業務に伴う責任を負う立場にあるということができる。」

 
2 その他の事情について


 「・・・原告を含む本件大学の非常勤講師の月額給与については,本件非常勤講師給与規則の別表である別紙2「中央学院大学非常勤講師本俸表」に記載のとおりとされているところ,被告は,従前より,労働組合との間で本件大学に勤務する非常勤講師の待遇に関する協議を行い,上記の別表を増額方向で随時改定するとともに,平成25年頃には本件非常勤講師給与規則第3条第5項を新設することを,平成26年頃には週5コマ以上の授業を担当する非常勤講師について私学共済への加入手続を行うことをそれぞれ合意したほか,平成28年12月6日には,原告が結成し,執行委員長を務める労働組合である全国教職員組合との間で,上記の別表に定められた非常勤講師の1コマ当たりの月額給与について,平成29年4月1日より1000円増額し,平成30年4月1日より更に1000円増額することを合意した。
 また,全国教職員組合は,平成27年2月27日から断続的に被告と団体交渉を行い,被告に対し,原告を専任教員として採用することを要求するなどしていたところ,被告は,平成28年に,原告に対し,基準日(同年4月1日)に在職する非常勤講師のうち在職期間が20年を超え,基準日において出講日数が週3日以上かつ担当コマ数が週5日以上の者について,1コマ当たりの月額給与を5万円とすること,「EU法」廃止に伴う減コマ補償として1コマ分の給与を支給すること,賞与として7月及び12月にそれぞれ給与の2か月分を支給することなどを内容とする非常勤講師の給与特則を制定し,施行すること(これに伴い,原告については,同年から定年までの5年間,年収として480万円を保証する。)により,原告の被告における処遇問題(歴代法学部長の言動問題,労働契約法第20条問題,雇用対策法第10条問題,「EU法」廃止問題等)を全て解決することができないかなどといった提案をしていた。(甲12及び13)」

「・・・本件大学における非常勤講師の賃金水準は,首都圏私大及び国立大学の非常勤講師の賃金水準と比較して突出して高いものとも低いものともいうことができず,ほぼ同水準である。(乙17,18,28及び29)
 また,関西圏大学非常勤講師組合による平成17年の非常勤講師実態調査アンケートの結果によれば,専業非常勤講師(主に大学の非常勤講師を職業としている者)の平均年収は306万円(44%は250万円以下である。),担当コマ数の平均は9.2コマであり,職場の社会保険に入っている者は3%にとどまるとされている。(甲25)」

 
3 賃金の額や手当の有無に係る相違について

「・・・原告が比較対象者として主張する本件大学の専任教員について平成25年11月から平成28年10月までの間に支給される本俸額が合計1999万5600円(年666万5200円)であり,賞与及び年度末手当額が合計883万2534円(年294万4178円)であるとされ(これらの額は,平成27年度における本件大学の全専任教員の平均年俸額(664万9937円)並びに平均賞与及び年度末手当額(278万1975円)(乙52及び53)とほぼ変わらないものである。),専任教員については,これらに加えて,上記第2の2(3)ウの前提事実のとおりの家族手当(配偶者のある者については,月額1万6000円)及び住宅手当(世帯主については,月額1万7500円)が支給されていた。他方で,非常勤講師である原告の平成27年度の本俸(1コマ当たりの月額給与)額は3万2100円であり,平成25年11月から平成28年10月までの間に支給された本俸額(本件非常勤講師給与規則第3条第5項に基づく廃止コマの補償分を含む。)が合計684万9520円(年228万3173円)であったところ,これに加えて,賞与,年度末手当,家族手当及び住宅手当が支給されることはなかったものである。」

4 賞与及び年度末手当についてについて

「・・・・・被告は,本件大学の専任教員のみに対して賞与及び年度末手当を支給していたものである。しかしながら,これらは,被告の財政状態及び教職員の勤務成績に応じて支給されるものである(本件給与規則第22条及び第23条)ところ,上記ウにおいて指摘した各事情に加え,本件大学の専任教員が,授業を担当するのみならず,被告(本件大学)の財政状況に直結する学生募集や入学試験に関する業務を含む大学運営に関する幅広い業務を行い,これらの業務に伴う責任を負う立場にあること(それ故に,本件大学の専任教員は,被告との間の労働契約上,職務専念義務を負い(本件就業規則第3条),原則として兼職が禁止されている(本件就業特則第5条)。また,大学において一定数以上の専任教員を確保しなければならないとされていること(大学設置基準第13条)も,専任教員がその他の教員と異なる重要な職責を負うことの現れであるということができる。)からすると,被告において,本件大学の専任教員のみに対して賞与及び年度末手当を支給することが不合理であると評価することはできないというべきである。」

 

【コメント】

賞与に関する労契法20条の裁判例については、近年、「期間の定めのない従業員に賞与を支払っている場合」、「期間の定めのある従業員にも、(同額であるかは別にして)賞与を支払うべき」とする裁判例が注目されています。
今回紹介する裁判例は、「賞与は、支払わない」という事案において、使用者勝訴としていますので、ご紹介します。

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