メルマガ 2021年7月号

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目次

①(製造販売業×有期社員×同一労働同一賃金×昼食手当)昼食手当に係る労働条件の相違は、労契法20条等に反するものではない、などとされた例 

【判例】

事件名:科学飼料研究所事件
判決日:神戸地裁姫路支部 令和3年3月22日

【事案の概要】

 被告と期間の定めのある労働契約を締結して「嘱託」との名称の雇用形態により勤務していた原告らが,無期契約労働者との間で,賞与,家族手当,住宅手当及び昼食手当に相違があることは,労働契約法20条等に違反している旨などを主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,上記手当等に係る賃金に相当する額等の支払を求めた(他の論点は割愛。※今回は、「嘱託」社員についての、昼食手当を、検討対象とします。)。

【雇用形態】(ハイライト箇所(太字・斜体)が、原告ら)

社員(無期労働契約) 年俸社員を除く社員「総合職コース」:転居を伴う転勤あり
「専門職コース」:原則、転居を伴う転勤なし
年俸社員「一般職コース」:転居を伴う転勤なし
嘱託(有期労働契約)  

【職能資格等級及び職務階層】

監理役経営職層
審査役管理職層
副審査役及び調査役 
一般職層1等級「担当業務について,グループのメンバーに指導できる程度の専門知識を持っている」ことなど
2等級「担当業務について,グループの見通しを立て,段取りを考えて進めることができる」ことなど
3等級「日常的な仕事については,規程,要領等の他に前例や経験等を加味し,自分の判断で処理して良いことと,上司の指示を求めるべきことを区分でき,適切に対処することができる」ことなど
4等級「日常反復的・定型的業務が処理できる程度の知識・技術・技能を持っている」ことなど

※ 太字・下線が、原告ら主張の比較対象(龍野工場の製造課に所属する社員に限る)
※ ハイライト箇所(太字・斜体)が、裁判所認定の比較対象

龍野工場の製造課に所属する社員に限る

【基本給、年俸】

   基本給(月額)賞与家族手当住宅手当昼食手当年間給与額
社員(無期労働契約) 年俸社員を除く社員「総合職コース」      
「専門職コース」      
「一般職コース」100%〇(11,700円)100%
嘱託(有期労働契約)  約114%××××約70%(100万円以上の差)

※ 年間給与額は、通勤手当を除く平均額
※ %の数値は、原・被告の主張に基づく

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。下線部、①②などの数字、装飾等は引用者による。)】

1 比較対象について
原告らは,一般職コース社員のうち,職能資格等級が4等級である社員を比較の対象とするべきであると主張する。」

「しかし,本件職能資格規程には,「職能資格等級に基づいて業務上の指示・命令を行うことはできない」と定められており(甲7,乙1・4条),職能資格等級と業務の内容は直接連動するものではなく(乙48~49),職能資格等級は当該社員の能力を示す基準に過ぎない」

また、「証拠上,龍野工場製造課に所属する全ての一般職コース社員についてその昇格の経過等は必ずしも判然としない」

そうすると、「比較の対象を職能資格等級が4等級の社員のみに限定することは相当とはいえないことから,以下では龍野工場の製造課に所属する一般職コース社員と比較する。」

2 昼食手当の趣旨について
第一に、「昼食手当が,過去に全国一律かつ相当幅による増額がされてきた等の経緯」は、以下のとおりである。

すなわち、「証拠(乙30~31,49)によれば,被告における昼食手当の金額は,昭和43年当時は1000円であったが,その後,昭和45年に1600円,昭和46年に2000円,昭和49年に5000円,昭和60年に7000円,昭和63年に8000円,平成元年に1万円,平成4年に現在の1万1700円と,全国で一律の増加幅によって金額の改定が行われた」。

「また,平成3年7月の役員会では,当時の労働市場における労働力不足に対応するべく,年間給与額は維持しつつ,見かけ上,安い印象が持たれていた月額給与額を増加させるために,賞与の1.5か月相当分を月額給与に繰り入れる旨,その調整の際の不足額は,一律支給をしている昼食手当で補完する旨などの議論が行われていた」。

さらに、「平成4年5月の役員会では,初任給調整として昼食手当に1000円を加算するとの議論が行われていた」。

第二に、「昼食手当は賞与のベースとされていない」。

そうすると、「被告が支給している昼食手当は,当初は従業員の食事に係る補助との趣旨として支給されていたとしても,遅くとも平成4年頃までにはその名称にかかわらず,月額給与額を調整する趣旨で支給されていたと認められる。」

3 職務の内容について
たしかに、「原告ら嘱託社員と一般職コース社員は,工場の稼働中,いずれも作業担当者である工程担当者として定型的な作業を行うことがあった。したがって,両社員は,この点で同一の業務に従事していたと認められる。」

しかし、「嘱託社員は,定型的な作業だけに従事しており,(副)工程管理責任者としての業務,作業主任者としての業務,OA機器を用いた業務に従事することはなく,また,トラブルの発生時において,その原因究明等を行うことまで求められていなかった。」

 よって、「嘱託社員と一般職コース社員との間には,職務の内容に一定の相違があった」。

4 職務の内容及び配置の変更の範囲について
たしかに、「一般職コース社員と嘱託社員は,いずれも転勤を伴う配置の転換を命じられることはないから,この点で,両社員の職務の内容等の範囲に相違はなかった。」
 ① 「龍野工場の一般職コース社員」について
龍野工場の一般職コース社員において,「その頻度は高くなかった」ものの、「課を越えた異動が行われる可能性があった」。

また、「経験を積んだ一般職コース社員は,その適性や能力に応じて,(副)工程管理責任者や作業主任者として選任され,その業務に従事することが予定されていた」。

さらに、「一般職コース社員には本件人事考課規程が適用され,職能資格等級の昇格に伴い,最終的には管理職層の調査役として,人材のマネジメント業務を担うことまで一応想定されていた。」

 ② 「嘱託社員」について
「製造課で定型的な作業を行うことが想定されており,課を越えた異動が命じられることや,(副)工程管理責任者や作業主任者としての業務はもとより管理職層としての業務を担うことは想定されていなかった」。

 ③ 小括
よって、「原告ら嘱託社員と一般職コース社員との間には,職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があった」。

5 その他の事情について
 ⑴ 人材活用の仕組みについて
①「一般職コース社員」について
「本件職能資格規程及び本件人事考課規程が適用され,一般職コース社員は,職能資格等級制度を通じて,段階的に職務遂行能力を向上させていくことが求められていたといえる。」

「また,一般職コース社員は,本件人事考課規程に基づいて,目標面談を受け,人事考課を受ける必要があり,その結果は,職能資格等級の昇格選考に活用されていた。」

さらに、「一般職コース社員の業務は相応の責任や知識等を要する業務である」。

そうすると、「被告においては,一般職コース社員について,人事考課制度を通じてその職務遂行能力の向上を図ることや,上記業務を遂行できる人材として長期的に育成していくことが予定されていたといえる。」

② 「嘱託社員」について
「本件職能資格規程や本件人事考課規程は適用されなかった」。

③ 小括
よって、「原告ら嘱託社員と一般職コース社員では人材活用の仕組みが大きく異なっていた」。

⑵ 賃金体系について
① 「一般職コース社員」について
「一般職コース社員には本件給与規程が適用され,その基本給は,年齢給,職能給及び調整給から構成されていた。」

② 「嘱託社員」について
「本件嘱託就業規則が適用され,その給与は年俸制とされていた。」

③ 小括
 「このように,両社員の賃金体系は異なっていたところ,前記1(13)によれば,再雇用者を除く原告ら嘱託社員の年間支給額は,一般職コース社員の基本給の年間支給額と比較して,高い水準となっていた(このことは,一般職コース社員の基本給に昼食手当を加えた場合も同じである。)。」

 ⑶ 登用制度について
 「嘱託社員から年俸社員へ,年俸社員から一般職コース社員への試験による登用制度が設けられていた。」

もっとも、「被告では,一定の年齢制限と回数制限が設けられており,年齢制限によりその受験資格を得られなかった者がいた」。

6 小括
「これらの事情を総合すれば,昼食手当との名称や,原告ら嘱託社員には同手当が一切支給されないことなどをしん酌しても,一般職コース社員と原告ら嘱託社員との間に上記趣旨を持つ昼食手当に係る労働条件の相違があることが,不合理であるとまで評価することはできない。」

【結論】
「一般職コース社員に対して昼食手当を支給する一方で,原告ら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとは認められない。」

【コメント】
本件では、昼食手当に係る労働条件の相違は、労契法20条等に反するものではない、とされており、使用者に有利な裁判例ですので、ご紹介します。

②(労務×保険代理店×退職妨害×廃業予告の嫌がらせ×会社側勝訴)労働者の退職の際、退職手続に関する会社(代理店)の対応等につき不法行為が成立しないと判断された例

【判例】
事件名:グッドウイン事件
判決日:東京地裁令和3年2月4日

【事案の概要】
原告は、被告に対し、退職する旨を伝えた。その際、原告が契約した保険契約のうち、移管対象となる保険契約を明示したうえで当該保険契約の移管手続を速やかに進めることを求めた。被告は、退職にかかる合意書への署名押印などを求め、その後さらに、移管手続に関し、「当社所定の手続に従わない場合に相当しますので、今後は移管手続ではなく、廃業手続を進めて行くのがルールに即しており、その予定です。」などと連絡した。なお、被告は、その後、原告の廃業手続をとらず、原告が誓約した保険契約のうち、一部の保険契約を移管し、一部の保険契約の移管手続をとらなかった。これらの被告の対応につき、原告が、被告に対し、不法行為に基づく慰謝料等の支払を求めた(他の論点は、割愛。)。

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。下線部、①②などの数字、装飾等は引用者による。)】

・当事者

被告生命保険及び損害保険の保険代理店※業務:保険契約の媒介等※収入源:保険会社から支払われる媒介手数料
原告生命保険の訪問販売を行う営業に従事していた、被告の元従業員(元保険募集人)

・移管手続

保険契約の取扱いに関する移管手続保険募集人が転職する場合、代理店の地位(手数料収入を得られる地位)を移転させること
保険募集人資格に関する
移管手続
保険募集人が転職する場合、登録内容の変更の届出に関する手続を行うこと

(1)保険契約の移管に関する被告の対応について
「被告が保険契約の移管に必要な手続を行うためには,原告の転職先の保険代理店の名称等を認識する必要があった」。

しかし、「被告は,原告の退職時に,原告から,保険契約の移管先となる転職先の代理店の名称等について速やかに報告を受けることができなかった」上に、「原告から,移管可能な契約の確認作業の協力を得ることができなかった」ため、被告は「移管手続を進めることは出来なかった」。

これらの点に加え、「被告が原告の退職に際し当然に無条件ですべての保険契約を移管する義務を負っていたと認めるに足りる証拠はない」。

そうすると、「保険の移管手続に関する被告の対応に一定の時間を要し,一部の保険契約の移管がなされなかったことが,なんらか原告の権利利益を違法に侵害するものであると認めるに足りる証拠はないというべきである。」

(2)退職妨害及び廃業予告の嫌がらせについて
ア 本件退職にかかる合意書への署名押印を求めた点について
「本件退職にかかる合意書の記載内容からして,被告が原告に対しその署名押印を求めること自体がなんらか原告の権利利益を違法に侵害するものであると認めるに足りる証拠はない。」

イ 被告が原告の保険募集人としての資格を一方的に廃業しようとする嫌がらせを行ったとの点について
そもそも、「被告が当然にすべての保険契約及び保険募集人登録を無条件で移管する旨の義務を負っていたとは認められない」。

また、「被告が保険契約を移管するか否かは被告だけで決められるものではなく,移管先の代理店や保険会社の意向にもより,原告の協力も得られなければ移管作業がすすめられないにもかかわらず,原告が被告の求めた書面の提出を拒む状況にあった」。

そうすると、「被告としては廃業手続を進めて行くこととするのもやむを得ない側面があるとも考えられる。」

そのことに加えて、「最終的には被告が原告の廃業手続をとらずに一部の保険契約を任意に移管した」。

よって、「これらの被告の対応が,なんらか原告の権利利益を違法に侵害するものであると認めるに足りる証拠はないというべきである。」

【結論】
「以上によれば,被告の行為が原告の権利利益を違法に侵害するものであるとは認められず,原告の不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。」

【コメント】
本件は、①保険契約の移管に関する会社(代理店)の対応、及び②退職手続に関する会社(代理店)の対応につき、使用者(会社)に有利な裁判例であるため、紹介します。

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