不当解雇通知のリスク|1000万円超の支払いと企業のNG対応3選

目次

第1 「不当解雇で、無効です」との書面が届いたら

 社員を解雇してしばらくたったある日突然、元社員やその弁護士から、「不当解雇であり、無効です」との書面が届くことがあります。受け取った経営者の方は、すでに退職手続も済んでいるのに、今更何を言っているのかと驚きを感じることと存じます。

 しかし、解雇が無効となった場合、解決までの期間等によっては、1000万円を超える支払いが命じられることもあり、不当解雇であるとの主張に対しては、迅速かつ適切な対応が重要です。

 そこで、以下では、「不当解雇であり、無効です」との書面が届いた場合の初動対応のポイントを解説します。

第2 「不当解雇で、無効です」との書面が届いた際のNG対応

「不当解雇であり、無効です」との書面が届いた際に、企業が「してはらないNG対応」は次のとおりです。

【NG対応例】

㋐無視や放置する解決まで長期化すると、高額化するリスク
㋑慌てて不正確な回答をするのちの紛争で不利になるリスク
㋒元社員に直接連絡をするハラスメント等と主張されるリスク

無視や放置した場合

 すでに退職手続も済んでいるからといって、「不当解雇であり、無効です」との書面を無視したり、放置すると、元社員は弁護士や労働組合等に相談する可能性があります。また、元社員の弁護士からの書面には、通常、回答期限が定められており、期限内に何の反応もなければ、元社員の弁護士は、法的措置をとることを検討します。

 その結果、迅速に話し合いに応じていれば、早期に解決していたはずの問題が、解決までに長い時間を要し、かつ、法的手続等への対応の労力も必要となり、さらに解決に要する金額も高額になるというリスクが生じます。特に、「不当解雇」問題の特徴として、解雇が無効となった場合、バックペイ(解雇がなければ得られたであろう賃金の支払い)が命じられる点があります。例えば、解雇の有効性を争う訴訟になり、解雇を無効とする判決が出るまでに(解雇日から)1年半を要したとすると、その1年半分の給与の支払いを命じられる可能性が高く、非常に高額な金銭を支払うことになってしまいます。

慌てて不正確な回答をした場合

 無視や放置はNGとしても、慌てて対応することもNGです。元社員の弁護士からの内容証明郵便に、「期限までに回答がなければ法的措置をとります」と記載してあった場合、「すぐに回答しなければいけない」と焦るかもしれません。しかし、解雇の有効性等や今後の方針を検討せずに対応すると、不当解雇であることを認める対応や解雇の有効性を下げてしまうなど、後の紛争において不利に働くリスクがあります。

 例えば、最初の回答で、本来中心となるべき解雇理由を伝えず、他の解雇理由を伝えてしまうと、後の訴訟において、中心となるべき解雇理由の主張をしても、後になって付け足しただけであると企業に不利に判断されることになりかねません。

元社員に直接連絡した場合

 元社員の弁護士からの書面には、通常、本件については弁護士に連絡をするようにとの内容が記載されています。経営者としては、「元社員と直接話せば誤解が解ける」、「自分が直接話せば説得できるはずだ」、という思いを抱くかもしれません。

 しかし、元社員が企業と対立姿勢を明確にしている段階において、経営者が直接元社員に連絡をしても、逆効果となる可能性が高いです。不当解雇であると主張されているケースでは、あわせてハラスメントを受けていたとの主張や、違法な退職勧奨を受けていたと主張されることも少なくありません。経営者の元社員に対する説得は、感情的になったり、高圧的になったりする可能性も高く、その会話が録音されており、のちの訴訟でハラスメントや違法な退職勧奨の証拠として提出されることもあり得ます。また、直接連絡をしないようにとの要請を無視したこと自体が、経営者のコンプライアンス意識の欠如等の根拠として主張されるリスクもあります。

第3 「不当解雇で、無効です」との書面を受け取ったらすぐにとるべき対応

㋐書面内容の確認

 元社員側が、不当解雇であると主張している場合、「職場復帰」、「解雇から今までの賃金」、「損害賠償」を求められることが多いです。また、在職中にハラスメントを受けたとして、ハラスメントに関する損害賠償請求の主張等が併せてされることも少なくありません。

 まずは、元社員側が、何を求めているのかを確認すべきです。

 特に、大きな方向性として、元社員が、「職場に復帰することを求めているのか」、「金銭解決を求めているのか(例えば既に別の企業に就職しており、復帰するつもりはないのか)」について、元社員が求める解決内容を見極めることが重要です(ただし、元社員に弁護士がついている場合、バックペイを請求する観点から、書面では職場復帰を求めることが多いため、書面の記載からだけでは、元社員が求めている解決の方針が分からないこともあります)。

 回答期限までに、回答をしない場合、元社員側が、労働審判手続きの申し立て、労働訴訟の提起その他の手段を講じる可能性がありますので、いつまでに回答を求められているかを確認します。もっとも、回答期限は、元社員側が一方的に設定したものではあるため、これを遵守する法的義務まではなく、正確な内容を回答することを優先すべきです。ただ、無視されたと誤解され、法的措置等をとられることを避ける観点から、期限までに回答することが難しい場合には、その旨連絡をするのが穏当な対応です。

 元社員が不当解雇であることを主張する場合、元社員から解雇理由証明書や退職証明書を請求されることがあります。いずれも基本的には交付する義務があるため、これらの請求があるかを確認します。

 のちの紛争で、解雇の有効性を争うにあたっては、「どのような理由で解雇をしたのか」が非常に重要となります。そのため、解雇理由証明書や退職証明書(特に解雇理由の部分)を作成するにあたっては、必要な内容が適切な表現で記載できているか、不利な記載が含まれていないか、を慎重に確認する必要があります。

 元社員の要求に応じない場合、どのような流れが予定されているか、交渉による解決を希望しているのか、労働審判手続き、労働訴訟等を考えているかを文面上の記載から推測します。

㋑事案の確認

 「不当解雇であり、無効です」との書面が届いた場合、その元社員の退職がどのようなものであったのかを確認すべきです。解雇にも、普通解雇、懲戒解雇、諭旨解雇等の種類があります。また、時期や契約の種類によっても異なり、試用期間満了時の本採用拒否であったり、有期社員の雇止め(期間満了時に更新せず終了)かもしれません。それぞれ要件や有効性の判断の厳しさは異なるため、どのような退職であったのかを確認すべきです。

 また、経営者としては、社員が説得に応じて退職に同意したと思っていた場合や、退職勧奨中に、突如、退職代行サービスから退職する旨の連絡があり、社員が出勤しなくなったため退職手続をした場合など、経営者は解雇ではないと認識していた事案について、元社員側から、不当解雇と主張される(退職は本意ではなく、退職を強いられたことを解雇と主張される)こともあります。

 元社員に対する返答にあたっては、これらの事案の整理と、それぞれの要件に沿った有効性の検討が必要です。

㋒専門家への相談

 不当解雇が争いとなる紛争の特徴としては、無効と判断されるとバックペイが命じられるなど、解決に時間を要するほど、企業の支払金額が高額化するリスクがある点です。そのため、不当解雇が争いとなる場合、解雇が無効となるリスクの分析を踏まえた初期対応が、極めて重要です。

 例えば、解雇が無効となるリスクが高い事案では、解雇を撤回し、出勤を命じる対応や、ある程度の金銭を支払って金銭解決とすることが、結果的に企業の負担を軽減することにつながることもあります。経営者からすると、ようやく問題社員が退職したのに、解雇の撤回や、金銭を支払うことなど考えられないという気持ちを抱くこともあると思いますが、解雇が無効となるリスク(職場復帰に加えて高額のバックペイや損害賠償を支払うリスク)を踏まえて、どう対応することが合理的かを、冷静に検討することが重要です。

 これらのリスクや対応については、(解雇が有効か無効か、の緻密な分析を踏まえた)事案に応じた検討が必要となるため、不当解雇の案件について経験豊富な使用者側の弁護士に相談して進めることをお勧めします。

動画解説

本記事に関連する動画解説を希望される方は、下記YouTubeをご視聴下さい。

補足:参考情報

1、今後、新しい情報が入れば、アップデートしたいと思っています。

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