【注目の法改正】<社労士法改正>
弁護士田村裕一郎です。
本記事では、令和7年6月18日に可決成立した社労士法改正(2025年)を解説します。
また、社労士法改正を踏まえた「社労士と弁護士の連携」についても、コメントしています。今回の改正を契機として、社労士と弁護士がより緊密な連携を実現し、日本全体が元気になれば、と思います。
より具体的な内容については、本記事をご一読下さい。
改正点への実務対応と連携のポイント
1 社会保険労務士の使命に関する規定の新設
社会保険労務士法の目的規定を改め、「社会保険労務士は、労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施を通じて適切な労務管理の確立及び個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成に寄与することにより、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上並びに社会保障の向上及び増進に資し、もつて豊かな国民生活及び活力ある経済社会の実現に資することを使命とする」旨の規定を設けています(第1条関係)。

下記の議事録では、次のように言われています。
「第1条に社会保険労務士法の目的規定を定めておりました。この規定につきまして、資料記載のとおり、社会保険労務士の使命に関する規定を新たに設けるという改正を行っているのが1点目でございます。」
(2025年8月19日 第201回労働政策審議会労働条件分科会 議事録より引用)
【弁護士コメント】
社労士先生の場合、こういった使命を踏まえ、適切な業務遂行が求められます。「個人の尊厳が保持」、「労働者等の福祉の向上」という点が含まれている点も忘れてはいけません。
なお、従来通り、社労士先生は、労使紛争における交渉などの弁護士法違反行為はできません。そのため、労使紛争における交渉等については、社労士先生から(当事務所に限らず、労働トラブル案件に強い)弁護士に適切なバトンタッチを行い、労使紛争解決を迅速かつ円満に解決できればと思います。
2 労務監査に関する業務の明記
社会保険労務士の業務に、事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項に係る「法令並びに労働協約、就業規則及び労働契約の遵守の状況を監査すること」が含まれることを明記しています(第2条第1項第3号関係)。



下記の議事録では、次のように言われています。
「社会保険労務士の業務に関する規定でございますけれども、労働や社会保険に関する相談や指導を行うということが社会保険労務士の業務として規定されておりますところ、その業務について、法令や労働協約、就業規則及び労働契約の遵守の状況を監査することについても、この業務に含まれるということを明記するという改正でございます。」
(2025年8月19日 第201回労働政策審議会労働条件分科会 議事録より引用)
【弁護士コメント】
労務コンプライアンスは、昨今、企業にとって大きな経営事項です。そのため、労務監査業務が明記されたことは、企業にとっても、社労士先生にとっても、大きな意味を持ちます。但し、労務監査には高い専門性が求められますので、正しい知識の拡充と十分な経験値の確保などには留意する必要があります。
当事務所は、会社買収時における労務監査など、いわゆる法務・労務の監査の経験が豊富です。こういった経験を社労士先生にご提供することにより、社労士先生をバックアップできればと思います。
3 社会保険労務士による裁判所への出頭及び陳述に関する規定の整備
社会保険労務士が裁判所にともに出頭し陳述をすることができることとされている弁護士の地位について、「訴訟代理人」を「代理人」に改めています (第2条の2関係)。



下記の議事録では、次のように言われています。
「社会保険労務士は、裁判所におきまして補佐人として弁護士と共に出頭し陳述することができるとされております。この弁護士の地位につきまして「訴訟代理人」を「代理人」に改めるという改正を行っております。これによりまして、訴訟の場面だけではなく、労働審判や民事調停の場面でも社会保険労務士が出頭し陳述することができるということを明記したものでございます。」
(2025年8月19日 第201回労働政策審議会労働条件分科会 議事録より引用)
【弁護士コメント】
労働審判手続きや民事調停の場面においても、社労士先生の活躍の場が広がった点は、社会的な意味を含め、大きな点です。労働審判手続きでは、労使の激しい見解の相違が浮き彫りになることもありますので、そういった手続きに社労士先生が関与されることで、就業規則作成などの業務にプラスの影響が働くものと思います。
労働審判や民事調停では、社労士先生が出頭し陳述し得ますので、今後は、弁護士と社労士先生の連携が、重要になってきます。特に地方では、労働法に詳しくない弁護士が多いため、社労士先生がお持ちの知識・経験と、弁護士が持つトラブル解決技術との間にシナジーが生まれ、これまでよりも格段に優れた解決が図られるものと思います。
4 名称の使用制限に係る類似名称の例示の明記
(1) 社会保険労務士に類似する名称に「社労士」が含まれることを明記しています。
(2) 社会保険労務士法人に類似する名称に「社労士法人」が含まれることを明記しています。
(3) 社会保険労務士会又は全国社会保険労務士会連合会に類似する名称に「社労士会」及び「全国社労士会連合会」が含まれることを明記しています。
以上につき、第26条関係。



下記の議事録では、次のように言われています。
「名称の使用制限に関する規定でございまして、社会保険労務士でない者は社会保険労務士、またはこれに類似する名称を用いてはならないという規定が置かれておりました。この例示の中に「社労士」が含まれるということを明記するという改正でございます。」
(2025年8月19日 第201回労働政策審議会労働条件分科会 議事録より引用)
【弁護士コメント】
たしかに、「社会保険労務士」もさることながら、「社労士」先生と呼ぶことも多いため、この改正は望ましいと思います。
もし、社労士資格を持たない者であるにもかかわらず、社労士を名乗っている者がいれば、いつでも遠慮なく、弁護士にご連絡いただき、しかるべき対応ができればと思います。
5 施行期日
上記1及び2の規定については公布の日から、上記4の規定については公布の日から起算して10日を経過した日から、上記3の規定については令和7年10月1日から施行とされています。
補足:参考情報
1、今後、新しい情報が入れば、アップデートしたいと思っています。
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